息抜きのお供に大人のまんが特集

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「私にできるすべてのこと」池辺葵著

 変異株の猛威に、またしばらくステイホームが続きそうだ。そんなオウチ時間に、大人向けの漫画はいかがだろう。今週は世界が注目するウイグル問題、AIと人間の共存、コロナ禍の日常を描く作品など、考えさせられる作品5本をご紹介。“絵”が誘うリアルな世界に遊ぼう。



 郊外の喫茶店で働く少女・和音は、ヒト型AIロボット。捨てられていたところを、店主の斗音おばさんに拾われ、いまは穏やかな日常を送っている。しかし、監視カメラ内蔵ロボットのため、あれこれと観察し、報告書を書くのが和音の日課になっている。

 一方、グリース社でクレーム処理係として働く広末翔もまた、AIのロウと暮らしていた。そして翔の上司・田岡もAIだった。

 AIの大量生産から20年経ち、世間ではAIの廃棄が始まっていた。そんな中、斗音おばさんが突然倒れ、翔には資源循環局に勤める父親から「直にロウも回収する」との連絡が入る。和音の機転で斗音おばさんは一命を取り留めたが、和音は町はずれの廃棄場に自ら赴く――。

 人とAIが共に生きる近未来を舞台に、和音を軸に展開する群像劇。

(文藝春秋 1045円)

「恋する民俗学者」大塚英志原作、中島千晴漫画

 子供のころから近所の家の蔵に忍び込み書物を読み漁っていた松岡國男は、ある日、兄から「歌が好きか。それなら勉強させてやる」と言われ、上京することに。

 ところが國男は中学にも通わず本を読むばかりで、心配した兄に桂園派の歌人・松浦辰男を紹介される。自分の心を表現するのが苦手な國男はやがて、既にある歌を元に題を定めて歌を詠む「題詠」で、恋の歌を詠み始める。松浦の門下生で田山花袋は、國男が詠む詩と恋に心酔し、また故郷の幼馴染みの秀子は、國男が雑誌に書く歌を読んでは「誰かに恋をしているのでは」と気を揉んでいた……。

 民俗学者として知られる柳田國男の、ロマン主義詩人としての姿を史実をベースに描く評伝漫画。作中では、國男が文学を知るきっかけとなった森鴎外、島崎藤村ら文人たちとの交流、創作への迷いと秘めたる恋など、新しくもナイーブな青年・國男像が躍動する。

(KADOKAWA 3080円)

「MANGA Day to Day(上・下)」講談社編

島耕作」を執筆していると、担当編集者のマッピラ君が、著者を訪ねてきた。ネームを見せるとマッピラ君は「島耕作は現実とリンクした内容の漫画ですよね。だったらこのご時世、マスクをさせなきゃおかしい」と言うので、著者は描き直すことに。

 後日、完成した漫画を見た編集長は「バカモン! マスクで表情が全くわからないじゃないか!」と激怒。平然と「先生、ボツです。描き直してください」というマッピラ君に著者は……。(弘兼憲史著「マスク島耕作」)

 連載の扉ページに志村けんの「変なおじさん」の絵を入れるつもりで準備をしていた僕の脳裏に浮かぶ子供時代を描く柳内大樹著「変なおじさん」など、2020年4月1日から7月9日まで、全109組の漫画家たちによる日替わり1日1話の珠玉の作品集。舞台はすべて2020年4月以降の日本だ。

 トップバッターのちばてつやをはじめ、安野モヨコ、田中圭一、矢部太郎らがコロナ禍の日常を描く。

(講談社 各1540円)

「敗者復活のうた。」劔樹人著

 主人公はサラリーマンの宮本佳彦、36歳。かつて宮本はロックバンドのメンバーで、インディーズながらCDも出し、そこそこ知られた存在だった。しかし将来を悩んだ宮本は26歳のとき就職を決意。以来、音楽から遠ざかった生活をしてきたが、ある日、メジャーデビューした平均年齢45歳のおっさんバンド「つまみファクトリー」を知り、音楽への気持ちがフツフツと蘇る。妻に内緒でローンを組んでギターを買い、音楽レベル低すぎのおっさん3人と活動を開始することに。なかなか上達はしないものの、昔のツテで初ライブをすることになった宮本たち。なんと「つまみファクトリー」の前座という願ってもないチャンスが舞い込む。

 ミュージシャンをしながら漫画家として活躍する著者による音楽漫画。音楽に対する自負心と情熱、仕事と活動との両立の悩みなど、前途多難の日常がリアルに描かれる。

(双葉社 1760円)

「命がけの証言」清水ともみ著

 本書は在日ウイグル人7人の生身の証言を元に中国による文化的ジェノサイド、中絶の強要など知られざる実態を描いた話題の書き下ろし漫画。

 あるとき「ウイグル弾圧」を具体的に知った著者は、さらに調べ続ける中で「弾圧以上のこと」の惨めに震えたという。

 36歳の「私」は日本で暮らすウイグル人。2017年、故郷で暮らす20歳の弟が「勉強に連れていかれた」ことを知る。つまりそれは「強制収容所に連れていかれた」ことを意味するのだ。90年代後半から農村部で子供が行方不明になる事件が多発。医師が帰ってきた子供の遺体を調べると眼球や臓器がなかったという。都市部には臓器移植の専門病院があり、海外からの移植ツーリストも受け入れている。もしや弟も……。

 ウイグル人の家に「親戚」として同居する漢人の存在、故郷の家族を人質にスパイの強要まで。静岡大学教授の楊海英氏との対談も収録。

(WAC 1320円)

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