「ダマして生きのびる虫の擬態」海野和男著
昆虫の仲間には、捕食者から逃れ、自然界で生き延びるために、植物の葉や枝など周囲のモノに「化け」たり、間一髪のときに派手な模様で敵を驚かせて(攻撃的擬態)チャンスを得るなど、さまざまな擬態や隠蔽を行うものがいる。著者は「擬態をしている昆虫は凝り性」だという。何もそこまでしなくてもよいだろうと思うほど細部にまでソックリだからだ。そんなふうに見事に「化ける」昆虫たちの写真集。
トップバッターは擬態界のスター、コノハムシ。
マレーシアに生息するオオコノハムシは、マメ科のクラという植物を食べて育つので、この木の葉に擬態。驚くことにその姿形だけでなく、新緑のような鮮やかな緑から、茶色が混じって少し枯れているように見えたり、虫食いのあとがあるように見えたりと、同じ種でも個体ごとにいろいろな姿で木の葉に化けるのだ。
著者から「日本一すごい擬態の巧者」とお墨付きを与えられたのは「ムラサキシャチホコ」、長野県や東北地方で普通に見られるガの仲間だ。
このガは、必ず木の葉の上面にとまる。そうすると、光が上からあたり、丸まった枯れ葉のように見えるのだ。しかし、実際には羽が丸まっているのではなく、単に前羽と胸の模様の陰影によって立体的に見えているだけだという。しかし、写真に目を凝らしても、やはり丸まった木の葉にしか見えない。「自然のだまし絵」のような昆虫なのだ。
他にもコナラの木で冬を越し、春の芽吹きに合わせて体の色を茶から緑色に変化させるカギシロスジアオシャクの幼虫や、見た目だけでなく匂いも植物に似せて気配を消すクワエダシャクの幼虫など約170種の「凝り性な」昆虫が勢ぞろい。
著者が作成した動画が見られるQRコードも添付された充実の一冊。 (草思社 2640円)