「失われゆく娯楽の図鑑」藤木TDC監修
終戦後、復興とともにそれまでの耐え忍ぶ暮らしから解放された日本人は、多くの娯楽を楽しんだ。そして高度成長期、モーレツに働いた労働の成果も多くが娯楽に費やされ、文化・風俗が更新されてきた。つまり日本人はよく働き、よく遊んできたということだ。
しかし今では、「多くの娯楽がパソコンやスマホという小さな機械の中に集約され」てしまった(監修者の藤木氏)。
本書は、昭和から平成前期にかけて人々が熱中した娯楽を紹介する図鑑。例えば「トリスバー」は、終戦直後の1946年、密造酒が出回る中、安心できるウイスキー「トリス」を発売したサントリーが洋酒文化を広めるために全国にチェーン展開したバー。「サントリーバー」と合わせ、全国に3万5000店舗以上もあったという。
その他、1970年前後に大ブームが起き、その後、90年代初めに再びブームとなったのは「ボウリング」だ。しかし、ボウリングもレジャーの多様化で衰退しつつある。
他にも、社員旅行や町内会の催しとして盛んに行われた団体旅行やデパートの屋上遊園地、スマートボール、歌声喫茶、スーパーカーをはじめとする数々のブームなど、さまざまなジャンルの娯楽を、当時を知る体験者の声を交えながら紹介。
もちろん健全な娯楽だけでなく、ヤクザが仕切る「鉄火場」や、路上の青空賭博「デンスケ賭博」などの非合法賭博や、赤線(売春公認区域)やのぞき部屋、愛人バンクなどの風俗系まで。100以上の娯楽を網羅。
中にはNTTの「Q2」など、すっかり忘れていたサービスなどもあり、時代の変化の激しさにめまいがする。
懐かしい娯楽の数々に記憶の扉がノックされ、楽しかった思い出が蘇る。
(グラフィック社 2200円)