「世界変境紀行」フリオ・アシタカ著
著者が旅するのは辺境でなく変境。知らずと染み付いてしまった自らの「先入観」をボロボロと壊してくれるような「常識の外の世界」が著者にとっての変境だ。
これまで40カ国を旅してきた著者が、そんな特別な感慨を与えてくれた場所を「変境」と呼び記録した写真紀行。
西から東へのアメリカ横断のロードトリップ中に魅了されたのは、役目を終えて街から姿を消した旧車たちが安息の地でたたずむ風景だ。
ネバダ州の「International Car Forest」と呼ばれる場所は、車や大型バスを大地に突き刺し、住民たちがつくり出した廃車の森だ。まるで空から降ってきたかのように荒野に突き刺さる廃車のすべてにグラフィティが描かれ強烈なメッセージを伝える。
ある男性が亡くなった父親の追悼のためにつくったという中西部ネブラスカ州の「カーヘンジ」は、38台の自動車がイギリスのストーンヘンジさながら、輪のように並び、神聖な空間をつくり出している。
そしてジョージア州の森の中にある廃車置き場「Old Car City」では、4000台を超えるアメリカ製クラシックカーが静かに朽ちていくのを待っている。中には80年以上も前に製造された車もあり、さながら車の博物館のようだ。
一見、誰もが挑戦できそうな、そんなロードトリップから始まる著者の旅は、読者を振り落とすかのように次第に加速度を上げていく。
2016年から翌年にかけて中南米各国を巡った旅の目的のひとつは、幻覚植物を用いた伝統的な儀式に参加することだったという。
旅のはじまりのメキシコ南部オアハカ州ウアウトラの街では、シャーマンのナタリアによるマジックマッシュルームを用いたセレモニーを体験。さらにペルーではバニステリオプシス・カーピという植物の蔓を煮詰めて作ったアヤワスカを用いる儀式に参加。そのサイケデリック体験は、せわしない日常から自分を切り離し静寂の中に置き換える極上のひとときとなり、ありのままの世界を見るきっかけとなったという。
17年のキューバでは滞在中に、カテゴリー5の超巨大ハリケーン・イルマが上陸。破壊・浸水被害に遭っても悲愴感もなく生き生きと助け合いながら復旧活動に励む人々の姿を目にする。
その他、これまでに推計で800万人もの人が命を落としたといわれるボリビアのポトシにある銀鉱山「セロ・リコ」や、ソビエト連邦時代に栄えたジョージア第2の都市クタイシ郊外にある廃虚ホテル、そして滞在中にロックダウンとなり約1年出国できなくなりとどまったインドなど、9カ所の世界の変境を案内。
コロナによる制限の緩和が進む中、読者を自らの「変境」を探す旅に誘う刺激的な写真集。
(彩図社 2420円)