タブレット純(歌手・タレント)
11月×日 もっぱら古本屋通いで、扉を開き真新しい紙の匂いを嗅ぐ近刊といえばお仕事上で出会う方々の謹呈本ばかりのような。
特に佐藤利明さんは、最もその著書を譲り受けることが多い方かと。昭和の芸能文化の探究を絶えずライフワークとされているこの道の巨匠。勉強家ゆえに多作であります。
この度は笠置シヅ子さんの生涯を描かれた「笠置シヅ子 ブギウギ伝説」(興陽館 1540円)。利明さんならではの、ベタベタと私観を織り混ぜないわかりやすい文章で、史実としての「仕事ぶり」をくまなくパッケージ。そこに人物へのオマージュがキラキラと滲んでいます。古い歌謡曲が好きなぼくも、さすがに黎明期の流行歌には疎く、笠置さんも遠い記憶の「カネヨンでっせ」のおそうじオバチャンだったりしたのですが、台所だけでなくこんなにも世の中を明るく彩った偉大な方だったとは! 正直、笠置さんの人となりに対するネガティブな評判も、その音楽を遠ざけていた理由だったのですが、この本によって誤解していたことも多かったことを深く反省。喜劇王エノケンさんが「生一本の熱燗」と題しての「彼女の歌は生一本である。彼女の生活には舞台と楽屋の表裏がない。ただ生一本である」という寄稿が、きっと笠置さんの全て。戦後、日本がようやく明るくなってきた矢先に、まるで自分の役割を終えたかのように潔くマイクを置いてしまったことも、ぼくも舞台人のはしくれとして学び考えさせられるところがあります。とにかくこの冬、熱燗でブギを嗜んでみよう。
11月×日 潔く消えてしまった…といえば。この日、古本屋で見つけたのは藤谷美和子さんのエッセー集「ふんわり三角」(ワニブックス)。本格的女優になられる前の、サンリオ風ファンシーなつくりなのですが、後に“ぷっつん”と表現されてしまう可笑しくて危うい蝶々の鱗粉が文の谷間のそこかしこに。芸能界に染まるにはあまりも詩人すぎた美和子さん。素敵です。真のエンターテイナーは、やはり“生一本”なのですねぇ。