宮内悠介(作家)
10月×日 翌年に出す短編集の直しをやる。夕食後、文庫化した青木知己著「Y駅発深夜バス」(東京創元社 880円)を読む。聞くところ、表題作が伝説の短編らしい。読者への情報開示の順番、謎や伏線が鮮やかで、こりゃまいったと思う。ほかの短編もいい具合。
10月×日 この日も短編集の直し。合間に、クリス・ミラー著「半導体戦争」(千葉敏生訳 ダイヤモンド社 2970円)をぱらぱらとめくる。半導体の歴史を黎明期からたどり、100人を超えるインタビューを含むノンフィクション。知識が2010年くらいで止まっていたので、こうした本の刊行はありがたい。
10月×日 短編集のあとがきを書かねばならない。が、なかには7年前くらいの短編も含まれており、記憶が怪しい。そこで当時のメールや自分のつぶやきをたどったりして、自分が何を考えていたのか思い出そうとする。現実逃避で、呉勝浩著「素敵な圧迫」(KADOKAWA 1980円)を読む。それぞれに味わいの違う全6編の短編集で、全体的にはミステリー寄りだろうか。呉さんの独特の読み口、健在。
10月×日 あとがき、なかなかまとまらない。阿津川辰海著「午後のチャイムが鳴るまでは」(実業之日本社 1870円)を読む。高校の昼休みを舞台にした連作で、しょうもないことに情熱を燃やす(でもそれがいい)生徒たちが愛らしい。たとえば冒頭の短編は、いかにして皆にバレずに昼休みにラーメンを食べに行くかという倒叙もの。ほかには人間消失事件、消しゴムを使ったポーカーでの騙し合い、「九マイルは遠すぎる」のオマージュ、天文台で起きた消失事件。爽やかな学園ミステリーだ。
10月×日 やっとあとがきを編集さんに送り、東浩紀著「訂正可能性の哲学」(ゲンロン 2860円)に着手。加齢のせいか、深く物事を考えることが減った気がするので、脳に油をさすような、そういうイメージで。