「インドの食卓」笠井亮平著
「インドの食卓」笠井亮平著
どんな国を旅したあとも、帰ってきてしばらくは楽しい中毒症状に陥る。現地で食べたものを日本で探したり、その国の映画を見たり。
インドのときは重症だった。帰国後、身の回りのインドっぽいものすべてに心身が反応して困った。しまいには、のどアメの看板に書かれた「ノド」が「インド」の一部に見えてドキドキした。アホだ。
我慢できず、数カ月後またインドに出かけてしまった。初回はチェンナイ、2度目はコルカタ。あぁ、こうして書いているとまたインド熱がうずく。
さて今回ご紹介するのは食べ物事情からインドをひもとく一冊。そこに「カレー」はない、と言い切るサブタイトルにまず引かれる。カレー粉は英国で作られた、インド料理は辛いとは限らない、酒や牛もどかどか消費されている……。
ページをめくるたびにインドの食に対する半端なイメージが吹き飛ばされていく。著者は南アジアの国際政治を専門とする研究者なので、歴史やデータの裏付けがしっかりしている。フフフ、これなら安心して受け売りできそうだ。
読み終わったあとに他人に受け売りしたくなる本はすばらしい。本書はまさにそれ。インドでは激辛トウガラシを軍事利用しているとか、既婚女性が夫の健康や長寿を願って断食する風習があるとか、亀田製菓がインドに進出して現地版の「柿の種」を作ったとか、受け売りしたくなるエピソードが満載だった。
インドで誕生した中華メニューに言及した「インド中華料理」の章もおもしろかった。さらには「アメリカンなインド中華」が登場して、もう何が何やら。世界は想像以上にごちゃごちゃだ。 (早川書房 1144円)