「語れ、内なる沖縄よ」エリザベス・ミキ・ブリナ著 石垣賀子訳
「語れ、内なる沖縄よ」エリザベス・ミキ・ブリナ著 石垣賀子訳
お母さんは娘の名前「エリザベス」を正しく発音することができない。お母さんは買い物に行くとき、びくびくしている。お父さんと娘が文学や政治の話で盛り上がっても、お母さんは蚊帳の外。ときどきお母さんは正気をなくすほど酒を飲む……。
わたしは本書を読み終えてしばらく、このお母さんのことが頭から離れなかった。終戦から3年後に沖縄・嘉手納に生まれ、極貧のなか勤務先のナイトクラブで出会った米兵と結婚し、アメリカに渡って娘を産み育てた女性──著者の母親だ。とても勇敢で働き者で愛情深い。でも、英語ができずアメリカ人のように振る舞えないお母さんは、家族のなかで常に半人前扱い。なにしろ、お母さんのみじめな立場を描写するのが、長くお母さんを見下してきた当の娘なのだ。記憶を絞り出すようにつづられた一文一文が、いやもう、生々しいったらない。
これまでに出会った移民の家族、ミックスルーツの親子のことが次々と浮かんだ。親と子で母語が異なるために葛藤するケースは世界中にある。それに、ひとごとじゃない。日本に生きるわたしだって。日本語ができない海外ルーツの友人を半人前扱いしたことが一度もないか? と問われると口ごもってしまう。マイノリティーの尊厳を奪う側にいるのだった。
本書は5年かけて書いたデビュー作だという。自らのルーツを否定していた著者がアメリカと沖縄の、英語と日本語の、男性と女性の不均衡に気づいたからこそ生まれた一冊。ゴールにたどりついた著者におめでとうと叫びたい。生々しい原稿を受け止めたご両親にも心からの祝福を。
(みすず書房 3960円)