<第1回>襲名披露は今回が“初体験”のようなものなんです
今年の初芝居、すなわち正月の歌舞伎公演は歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場、浅草公会堂の4カ所で開催されている。どこの劇場も客がよく入っているようで、興隆ぶりがうかがえる。中でも注目は、3月に5代目中村雀右衛門を襲名する芝雀が出ている歌舞伎座の舞台だ。芝雀は昼の部の「梶原平三誉石切」と夜の部の「雪暮夜入谷畦道」に出て、その好演ぶりが評判である。
学生時代から50年近く歌舞伎を見続けてきた私としては、芝雀が現役で3本の指に入る女形と高く評価している。「雪暮夜――」の三千歳は姿形、台詞、所作、どれも満点で、遊女がお尋ね者の情夫・直次郎を恋う心情を可憐に哀感たっぷりに演じた。直次郎役の市川染五郎との息もぴったりで、それは素晴らしい出来栄えであった。
芝雀は人間国宝、4世中村雀右衛門(平成24年没)の次男で現在60歳。兄の大谷友右衛門が立役(男役)専門とあって、主役を務められる「立女形」であった父の名跡を弟が継ぐ運びとなったわけだ。そこで今回、芝雀にインタビューした。
役者としての足跡に加え、親子関係、役者仲間との交遊録、楽屋話などを通じて歌舞伎に馴染みの薄い読者に芝居の魅力を伝えられれば幸甚である。まずは再来月に披露興行を控える心境を聞いた。