伊集院静氏語る「困難に立ち向かう姿にこそ真理がある」
桜色の表紙が出会いと別れの季節をおのずと感じさせる。作家・伊集院静氏(67)の最新エッセー「さよならの力 大人の流儀7」(講談社刊)が売れに売れている。累計165万部超の人気シリーズの第7弾。今作では「さよなら」をテーマに据え、自身が大学2年の時に経験した17歳の弟との死別、85年に急性骨髄性白血病のため亡くなった前妻で女優の夏目雅子さん(享年27)との最後の日々についてもしたためられている。「さよならには力がある。時間はかかるけれど必ず力になる」と語る伊集院氏。本紙読者に熱いエールを送ってもらった。
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私は弟を海難事故で亡くし、妻も亡くしました。なぜ自分の周りにはこんなに多く悲しい出来事が起こるのかと恨んだこともありましたが、実は世の中には近しい人との別離、死別を経験した人はたくさんいて、私が考えている以上に悲しかったり苦しい思いをしている人があふれていた。
サイン会の場などで実は若い時に妻を亡くして……とか、なぜ今まで黙っていたのに私にそういう話を打ち明けたのかと考えると、苦しくつらい時間があったからこそ自分を見つめて同時に他人を見つめた時に、もしできるなら同じ苦しみを抱える人に手を差し伸べて何かしてあげたいと慈しむ心境になったからではないかと。それはさよならが力になっている証しで、さよならには力がある、時間はかかるけれど必ず力になるんだという結論に至ったのです。つまり、さよならの力とは再出発、次に向かって歩き始めることなんだと。