なまりで悩む斉藤暁を救う 先輩女優・吉田日出子の一言
少し自信がついたのもデコさんとの舞台でしたね。77年12月に上演した「もっと泣いてよフラッパー」なんですけど、僕は劇中で主人公のデコさんがかぶっている帽子をサッと乱暴に奪って捨てる役でした。ところが、何日目かのそのシーンでデコさんはなぜか帽子をかぶってなかった。何かの拍子に帽子が先に舞台上に落っこちたんでしょうけど、すごく慌てましたよ。帽子を叩きつけて暗転。次のシーンへと移る区切りでしたから。それでとっさにデコさんが首に巻いていたマフラーをサッと奪って床に捨てたんです。
内心、ドキドキしていたのですが、終演後「あれ、良かったわよ」って褒めてくれましてね。入団して8カ月。自信を失いかけていた時でしたから、パッと一条のスポットライトが差したというか、本当にうれしかった。もう少し頑張ろう! って思ったものです。
あの時、もしデコさんが声をかけてくれてなかったら、たぶん自由劇場をやめてたと思うんです。そしたら俳優を続けていられたかどうかもわからないし、もちろん人生は大きく変わっていたでしょう。少なくとも今の立ち位置で役者はやってないと思います。
デコさんの演技を間近で見ることができ、芝居の勉強ができたのは、本当に幸せですね。