レバノン映画「判決、ふたつの希望」に監督が込めた思い
日本ではなかなか見られない中東の映画「判決、ふたつの希望」が来週31日、公開となる。第90回アカデミー賞でレバノン映画としては初めて外国語映画賞にノミネートされた作品だ。脚本と監督を務めたのは、仏在住のレバノン人、ジアド・ドゥエイリ氏(54)。レバノン内戦の暗い歴史に切り込む本作は、祖国を離れたから描けたのだという。
物語は、不法建築の補修工事を請け負っていたパレスチナ難民(イスラム教徒)である現場監督と、その建物の住人でキリスト教徒のレバノン人の間に起きた口論から始まる。単なる近所の揉め事が、ある侮辱的なひと言がきっかけで裁判沙汰となり、国家を揺るがす一大騒乱にまで発展していく。監督の実体験を着想とした法廷ドラマだ。
「僕の両親は左翼系の活動家だったから、自分の息子が熱狂的な右翼のキリスト教徒の視点から物語を描くことに抵抗し嫌がったんだ。『そんな映画を作ったら自分たちも周囲から白い目で見られかねない』ってね。たしかに自身の政治的思想や主義主張を変えるのは並大抵のことではない。僕自身、両親の影響で幼少期は左翼だったしね。でも、変わったんです。高校を卒業して19歳で渡米したことで、レバノンの社会を俯瞰して見られるようになった。ずっとレバノンにいた両親には難しかったとは思う。でも、最終的には寄り添ってくれた。数限りない僕とのディベート(議論)を通じて、人種、宗教、社会階層の相違があろうとも、皆、同じように祖国を愛しているんだと納得してくれたんだ」