レバノン映画「判決、ふたつの希望」に監督が込めた思い
80歳で現役バリバリの弁護士という母は法律コンサルタントとして製作にも関わっているが、「何度も、何度も、衝突した」と言う。
3歳から19歳まで過ごした祖国を離れ、映画の道を目指し渡米。クエンティン・タランティーノ監督のアシスタントカメラマンを務めた。手掛けるのはレバノンを題材にした作品が多い。
「人間はティーンエージャーのときに基礎を形成する。その時代に食べたものや嗅いだにおいは間違いなく僕の一部分となっている。内戦は1日、2日の出来事ではなく、魂に大きく痕を刻みつけるもの。日々、悲惨な光景を目にするんだ。普通の生活なんてままならない。ただ、多くの問題を抱えている国の姿は、作り手にたくさんのインスピレーションを与えてもくれる。社会的にも政治的にも資金的にもレバノン、いや、中東全域はまだ混乱している。戦後に復興した日本やドイツのような国とは真逆で、宗教が重しのようになり抜け出せない。でも、僕自身は幸いにもパスポートを持ち、海外で映画も作れる。まずはできることを模索していきたい」
レバノンで製作される映画は年間5、6本程度だという。同国の実情を詳しく知らなくても心をつかまれる、良質なオトナの映画だ。
(取材・文=小川泰加)