「判決、ふたつの希望」 言葉の暴力と肉体的暴力への結論
映画とは、何と凄いものなんだろう。そんな感慨が素直に体に染みわたってくるのが、レバノン映画の「判決、ふたつの希望」だ。都内は1館だけの公開。これが連日満席に近い状況でヒットしている。客層は年配者中心ではあるが、多様なジャンルの作品に関心をもつことができる日本人の感性に安心した。
レバノン映画と聞いて、小難しい政治劇を連想する人もいようが、全く違う。中東の複雑な人間模様が、ある事件をきっかけに開かれた裁判を経て、国中の大騒動を引き起こしていく。とてもダイナミックな展開で、まるで優れたサスペンス映画のようだった。
レバノンは多くのパレスチナ難民を受け入れており、本作はレバノン人とパレスチナ人の2人の対立が中心軸となる。その根は宗教の違い、過去の内戦から、現在のわだかまりまで多岐にわたる。2人の軋轢の所在が的確な表現で描かれ緊迫感もあるので、ワクワクしながら見ていられる。
2人ともに実直ではあるが、欠点ももっている。人格、人種、立場によって、優劣があるようには描かれない。これが見事であった。人間を分け隔てしないこの対等な視点が、対立の本質を逆にあからさまにするからだ。