サメフ・ゾアビ監督「表現を諦めたら状況認めるのと同じ」
肌の色も顔もほとんど同じなのに、同じ釜の飯が食えない。そんな民族対立の続くパレスチナ問題の要衝エルサレムで、メロドラマ制作のためにパレスチナの青年脚本家とイスラエルの軍司令官が手を組む――。世界で映画各賞受賞の話題作「テルアビブ・オン・ファイア」は、パレスチナ人のサメフ・ゾアビ監督(44)が世知辛い情勢をユーモアで切ったコメディーだ。
――高い分離壁の張り巡らされたエルサレムですが、言論や表現、映画製作に壁は?
「たくさんありますよ。とくに本作は言ってみれば全部が政治的ですからね。パレスチナ問題を映画にした作品は他にもありますけど、ほとんどが悲惨な状況が売りというようなドキュメンタリーだったりするし、見る側も、そんな状況を学びたがったりする。コメディーなんて言うと、最初は軽んじられるのが落ちでした」
――それでも挑戦し、実現できた理由は?
「私はナザレ近くの小さな村の出身で、深刻な現実と絶望感を肌身で知っている一方で、食卓にはユーモアのセンスとスピリッツがあり、街では雑多ななかで、皆がうまくやっていることも知っています。その潤滑油であるユーモアによって、普段は断絶された者同士が結果的に壁を乗り越えていくというアイデアが浮かんだ瞬間から、映画にして笑いたいと思ったんです。そして皆さんに笑ってもらいたかった。必ずうまくいくという根拠のない確信もあり、それにかけたんです。駄目ならキャリアの将来はないという崖っぷちの覚悟でしたけど」