ビジネス講談を開発 サラリーマンの定年後に焦点をあてた
古典が王道の講談の中で、古典とは真逆で、一時もてはやされたのが松鯉師匠が開発したビジネス講談。サラリーマンにはちょっと気になる。
「昭和50年代の半ばぐらいですかね。私と落語家が三菱電機の労働組合の慰労会の余興に呼ばれて講談と落語をやることになりまして、その後の飲み会で定年問題が話題になったんです。定年を迎えた社員がその後、気が抜けちゃって、人生に張り合いがなくなり、鬱々としてる人が多いと嘆いていました」
当時、社会問題になっていた定年後のサラリーマン人生。三菱電機は労使が一緒になってセカンドライフについて取り組んでいたという。
「定年問題は講談や落語になりませんかって聞かれまして。同行した落語家が『落語は無理だね』と答えたんです。でも、私は『講談ならできます』って言ったんですよ。そうしたらその後、三菱電機の労組からどーんと資料が届いた。大組織ですから社員の定年後の生活についてたくさん事例があるんですね。自殺したり離婚したり。悲劇的な定年後を迎える人が多かったんです。それで私が『惑いからの出発』という講談を作りました。定年以後に人生に惑いが出てくる。命がけで一生懸命働いて高度経済成長を成し遂げた人たちが定年後に、それまで誰も見たことのない抜け殻のような父ちゃんになる……。よりどころがなくなるんですよ。その惑いから抜け出し、新しい人生を出発させようという意味を込めて作りました。定年になってからでは遅いんですね。40代から定年の準備をしておくことをテーマにしました」