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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

ディズニー戦略に異変アリ!「フリー・ガイ」が提起する劇場公開と配信ビジネスの未来

公開日: 更新日:

 先週8月13日からスタートしたアクション大作「フリー・ガイ」が、全国524スクリーンでの公開を果たした。ディズニー作品の500超えは本当に久しぶりで、背景として今年3月の「ラーヤと龍の王国」以来、同社の上映を控える大手シネコンが目立っていたことがある。例外はあったが、公開規模は以前と比べると縮小され、興収でも「ラーヤ」以降は10億円を超える作品はなく(19日現在)、厳しいものになっている。

 ディズニーは「ラーヤ」以降、娯楽大作を中心に劇場公開と自社系列の動画配信サービス「ディズニープラス」のほぼ同時展開を行ってきた。国内興行の主軸を担う何社かの大手シネコンは、劇場公開から配信、DVD販売に至る過程で公開初日から3、4カ月の間隔をあける(映画業界では「ウィンドウ」という)ことを原則にしている。両者のほぼ同時公開では、予告編など劇場で作品宣伝を行うシアターマーケティングは実行しづらい(配信の宣伝になってしまう)。当然、興行に影響が出かねない。だからこそ上映を控えてきたのが、この半年ほどの事情であった。

 ところが、ディズニーは「フリー・ガイ」の劇場と配信の同時展開をしなかった。そのため、これまで控えていた大手シネコンも劇場上映に加わったのである。

■ディズニー配給、製作は20世紀スタジオ

 なぜ「フリー・ガイ」は劇場と配信の同時的展開をしなかったのか。それは製作元が関係しているものとみられる。同作品はディズニーの「配給」作品ではあるが、製作したのは、同社が一昨年買収した20世紀スタジオ(旧20世紀フォックス映画)だ。ディズニーは20世紀スタジオの関連作品は、従来とは異なる方針で進める目論見があるとみる。これはあくまで筆者の推測だが、「フリー・ガイ」の配給、配信もその戦略の中で考えられる。

 ある大手配給会社の幹部から「最近の報道によると、ディズニーは『ディズニープラス』の他に、日本国内で新たな動画配信サービスを設立する動きがあるようだ」と聞いた。すでに米国ではスタートしているらしいから、次のような推測も立つ。

 ディズニーが運営する2つの動画配信サービスで、作品のすみ分けがなされることだ。それは劇場公開戦略も含め、総合的な収益構造の中で、最良の結果を目指すことを意味する。ディズニー(ピクサー)、マーベル、20世紀スタジオなど、それぞれの製作主体による区分けになるのか。ジャンル、中身別の区分けとなるか。いろいろなケースが考えられよう。

日本国内の配信も45日後になる?

 実は「フリー・ガイ」は、米国においては劇場公開から45日後の配信が明らかになっている。これを踏まえて、国内の興行側もウィンドウは45日後を視野に入れているかもしれない。45日=6週間と3日。1作品ごとの興行の稼働日数として、そのウィンドウをどう捉えるか。作品によっては興行の最終段階を迎えている場合もあろう。一方で、2カ月、3カ月と、ロングランで数字を伸ばしていくものもある。判断は難しいが、興行側はどのように目算していくのか。細かいことをいえば、興収から配給会社の取り分(歩率というものがある)となる配給収入の面も交渉材料となる可能性がある。

 以上は、あくまで映画を送り出す側からの視点だ。当然ながら観客側にも言い分はあって、同時だろうが、ウィンドウが45日だろうが、何が何でも迫力あるスクリーンで見たいと思う人はいる。一方でプラス料金が加算されても見る時間帯も自由で交通費もかからず、同一料金での複数人での鑑賞も可能な配信で十分という人もいる。本来は映画館で見たいが、少し待てば配信で見られるのなら、こちらを選ぶと思う人もいる。

■観客の視点も織り込んだルール作りを

 ただ、ここで指摘したいのは、ルール作りの重要性だ。興行と配信の産業的なすみ分けがどうなるか分からないが、明解なルールのもと、受け手の納得がいく上映方法を何とか構築して欲しい。興行側に厳しい選択となるかもしれない。配給側も一過性のシミュレーションを優先し、途方もない数の人々の大切な思いが詰まっている映画館という拠点をないがしろにして欲しくない。まずは観客の視点も存分に織り込んだルール作りだ、歩み寄りだ。甘いといわれようと、そう強く思う。

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