尾上菊之助も松本幸四郎も…芸の継承は「父から子」という単線だけではない

公開日: 更新日:

 3月の歌舞伎座はオーソドックスな演目が並ぶ。昼の部最初の『菅原伝授手習鑑』の『寺子屋』では、尾上菊之助が松王丸を初めてつとめている。

「松王丸」という役も、『寺子屋』という演目も、音羽屋にはあまり縁がなく、菊之助の父・7代目菊五郎は演じていない。一方、菊之助の妻の父である中村吉右衛門にとっては、松王丸は最大の当たり役だった。

 では、菊之助は吉右衛門の芸を継いだのかというと、そうでもない。舞台には新しい松王丸がいた。それは英雄豪傑でもなければ忠義の人でもない、組織のしがらみの中で生きなければならない「普通の人」としての松王丸であり、サラリーマンの悲哀が浮き立つ。「すまじきものは宮仕え」なのは武部源蔵ではなく、松王丸のほうだったのだ。

 そんな松王丸を、菊之助は理知的かつ冷静沈着に演じる。「不憫だ」と嘆くシーンでも、感情を爆発はさせない。そこが物足りないと感じるかもしれないが、名優による名演技をご覧に入れますという吉右衛門の松王丸は、もういないのだ。

 この時代錯誤の物語を今後も上演し続けるのなら、等身大の人間としての松王丸というアプローチが適しているのかもしれない。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末