映画「パスト ライブス/再会」の“大人のラブストーリーの最高傑作”なる惹句に待った!
ヘソンは頭脳明晰なハンサムだが、見た目より脆い男。かの国に90年代から足を運んで仕事を重ねてきたぼくにとっても、ヘソンは韓国そのものだ。ナヨンの家族がカナダに移住した理由については、映画のなかで特に詳らかに語られはしないが、時代設定を考えれば97年のIMF通貨危機を連想するのは自然なことだろう。
翌98年に大統領に就任した金大中は経済改革に着手、また小渕恵三首相と日韓共同宣言を発表して日本文化開放を推進する。2001年に195億ドルを全額返済した韓国はようやくIMF管理体制から脱却し、翌02年にはFIFAワールドカップを日韓共催し、成功させた。そのテーマソングを七転八倒しながら韓国の音楽人たちと共作した経験をもつぼくには、ヘソンはビタースウィートな過去を抱えた旧友に見えて仕方がない。
最後にひとつ。再会を果たしたふたりが歩くブルックリン、そこで登場する回転木馬が絶妙だったなぁ。木馬は反時計回り。つまり時間を遡るわけですよ。あのシーンがたまらなく「恋愛映画」感に満ちていたのはたしか。映画やCMに関わるクリエイターにとっては、すぐにでもパクりたい誘惑に満ちたシーンでもあるだろう。でも、残念でした。日本やヨーロッパでは、じつは回転木馬は時計回りがほとんど。20年に閉園した〈としまえん〉もそうでした!