「ゴールデンウィーク」は映画業界の宣伝用語だった 疑わしさで満ちるは政治という現実か、映画という虚構か
現職首相への「帰れ」とくれば、やはり安倍晋三元首相
メディアはこの日を今年のゴールデンウィーク初日と位置付けたが、その過ごしかたは人それぞれだ。翌日に補選を控えた衆院東京15区(江東区)においては、この日は選挙活動最終日。過去最多の9人となる候補が乱立したことで、かなり緊迫した空気につつまれたと聞く。渋谷区の代々木公園では第95回メーデー中央大会が行われた。芳野友子会長率いる連合が仕切る労働者の祭典に、小池百合子都知事、武見敬三厚労相、立憲民主党の泉健太代表、国民民主党の玉木雄一郎代表らとともに出席したのが、第101代内閣総理大臣の岸田文雄氏である。
午前10時半過ぎ、政府代表としてスピーチに立った岸田首相は、年内に物価上昇を上回る所得を必ず実現し、来年以降で物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させると強調した。政治家とは、まだ実現していない、あるいは実現するかどうかわからない世界をよどみなく語る因果な職業なんだなあ。疑わしいことこの上ない。その〈疑わしさ〉を裏付けるかのように、スピーチの途中、参加者の一部から「帰れ」と野次が飛んだ。式典後、連合の芳野会長は記者団に「国民としてさまざまな思いが政府に対してあるというのは理解できる」と指摘しつつも、「来賓に組織内から野次が飛んだということは、非常に申し訳ないと思う」と詫びた。実質上の謝罪だった。
現職首相への「帰れ」とくれば、2017年7月にJR秋葉原駅前で街頭演説を行った安倍晋三元首相を思い出す向きもあるだろう。安倍氏は野次を飛ばす聴衆に向かって指を差し、「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」と言い返した。当時、反論する安倍氏を子供っぽいと呆れる人は多くいたが、いま、反論せぬ岸田氏を大人だねと称える有権者がいるわけではない。
Xフォロワー数15万人超を誇る戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんは「搾取される日本の労働者が、搾取側の岸田首相に『帰れ』と野次を飛ばすのは普通でしょう。普通じゃないのは、搾取側の岸田首相を『来賓』としてメーデー中央大会に呼び、野次られた搾取側の岸田首相に『お詫び』している連合の芳野友子会長ですよ。この人も頭の中は搾取側」とポスト。ぼくもこれにはストンと腑に落ちましたねえ。
話は〈エスパス・ビブリオ〉にもどる。午後3時、3人が登壇してイベントはスタート。司会進行役を担当するのは、この映画に唯一直接関わっていないぼくだ。まず観客に訊いてみた。『東京の嘘』を観たことがある人は手を挙げてください、と。すると、挙手したのは関係者を除けばなんと2人だけ! そこまで少ないと、もはや『東京の嘘』の存在自体が嘘のようでもある。これぞ「カルト映画」の面目躍如。つまりこの鼎談は「実際に観ていない客ばかりを集めて映画のトークイベントは成立するか」という社会実験なのだ。音楽の世界では〈架空の映画のサントラ〉は珍しいものではない。ならば〈存在があやしい映画のトークイベント〉があってもいいじゃないか。疑わしさで満ちているのは、政治という現実か、映画という虚構か、あるいはその両方か。
こうしてぼくの黄金週間は始まったのである。