著者のコラム一覧
本橋信宏作家

1956年、埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。バブル焼け跡派と自称。執筆はノンフィクション・小説・エッセー・評論まで幅広い。“東京の異界シリーズ”第5弾「高田馬場アンダーグラウンド」(駒草出版)発売中。「全裸監督 村西とおる伝」(新潮文庫)が、山田孝之主演でNetflixから世界190カ国同時配信決定。

「もはや戦後ではない」は、誇らしげな復活アピールではなかった

公開日: 更新日:

 ところが経済白書の意図は異なるものだった。「もはや戦後ではない」の文章の前は、「消費や投資の潜在需要はまだ高いかもしれないが、戦後の一時期に比べれば、その欲望の熾烈さは明らかに減少した」と記されている。

 つまり焼け野原になった戦後日本で人々は、食糧や衣服、住居など、必要不可欠のものを欲していたので、大きな需要はあった。ところが一通り行き渡り、貧しさから抜け出そうとしたいま、人々は以前よりも激しい欲望がなくなったために、経済成長が危ぶまれる、といった意味であった。

「もはや戦後ではない」は、誇らしげな復活アピールではなく、大丈夫か、日本、という杞憂なのである。

 まさに逆の意味!

 使うときの場面がまったく異なるのだ。

 しかし、すでに独り歩きしてしまった。実は経済白書に登場した「もはや戦後ではない」は、ネタ元がある。

 1956年「文藝春秋」2月号に掲載された「もはや戦後ではない」という英文学者・中野好夫の論文である。

 戦前日本の軍国主義的な立ち居振る舞いを批判し、戦後日本の新しい理想をもとう、というもので、経済白書版のフレーズとは異なるものだった。

 ズレが生じるのは引用の宿命か。

【連載】本橋信宏 萌える火曜日

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