漫画「ロダンのこころ」内田かずひろさん 3年前に一瞬ホームレスに…「不安が当たり前。不安が平常心です」
家賃55000円のアパートで1人暮らし
厳しい寒さに耐えられず、友人宅に転がりこみ、生活保護を受けようと福祉事務所に相談した。
「福祉事務所の方は親身になってくれたんですけど折り合いがつかず、生活保護は断念しました」
枡野さんや、歌人・天野慶さんら友人に助けられ、さらに状況を知って駆けつけてくれた、ホームレスを支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」が提供する、吉祥寺の部屋に3カ月滞在。その間にアルバイトを始め、新居を見つけられたそうだ。
「今も、そのとき始めたアルバイトで生活をしています。1人でマイペースでできる仕事なので向いています(笑)。電車で仕事場へ行き、朝8時半から夕方5時半まで、月に20日ほど働いています。1日3万歩近く歩くので、体力・筋力がつき、体重が6キロ増えました」
長年やめられなかったたばこはきっぱりやめた。運動と禁煙のおかげか、体調は良くなったという。
「でも、絵を描く仕事との両立は大変。アルバイトから帰宅後は頭が切り替えられないし、休日は体を休めたい。だから、朝5時に起き、アルバイト前の1時間半ほどを絵の時間に充てています」
支えてくれる家族は?
「父は高齢で施設に入所していて、母は亡くなりました。5歳下の弟は遠くに住み助けてもらえる状況ではありません。結婚は一度もしていません。僕は片付けが苦手で、部屋をゴミ屋敷にしてしまい、なかなか一緒に暮らせるようにならず、お付き合いしていた女性にも振られてしまいました」
独身で経済的余裕もないとなると、不安だろう。
「常に不安です。ホームレスになってからはとくに。不安が当たり前。むしろ不安に馴染んできて、不安が平常心です」
新著が売れて、明るい気持ちになってほしい。
さて、内田さんは福岡市で生まれ育ち、高校卒業後、絵本作家をめざし上京。日本児童文学専門学院(現・日本児童教育専門学校)で絵本制作を学び、89年、第11回クレヨンハウス絵本大賞優秀作品賞受賞。漫画にも挑戦し90年、4コマ漫画「シロと歩けば」(竹書房)で漫画家デビューした。
96年から2014年まで、朝日新聞や「週刊朝日」「AERA」で「ロダンのココロ」を連載。親しみやすい絵と物語で、多くの読者をほっこりさせた。
「実家は社宅だったので犬は飼えず、実は犬を飼ったことはないんです。上京後も、自分が食べていくのに精いっぱいでしたし。でも、人間に寄り添って生きている犬が好きで、子どもの頃から街でよく観察していました」
「朝日新聞で連載していた頃は、読者からファンレターをたくさんいただきました。今も捨てずに持っていますよ。僕は当時30代前半だったので、女性は『60過ぎのオバサンでごめんなさい』『うちの主人も……』などと僕がその気にならないよう気遣って書いてくれていましたね(笑)」
都内の家賃5万5000円のアパートで1人暮らし。
(取材・文=中野裕子)
■7月27日~8月12日、コーヒー&ギャラリー「ゑいじう」(新宿区荒木町)で内田かずひろ個展「ロダンのココロ国語辞典」出版記念展開催。