新橋演舞場vs歌舞伎座は「朧の森に棲む鬼」の圧勝…21世紀の歌舞伎新作では最も成功
21世紀になっての歌舞伎の新作のなかでは、最も成功している。何よりも、客に媚びていないのがいい。
歌舞伎座は3部制。第1部は絵本が原作の『あらしのよるに』。狼と山羊が会話できるというありえない設定の劇を、大人の俳優たちがまじめにやって、大人の観客が楽しむ。
第2部は今月唯一の古典歌舞伎で、河竹黙阿弥の『加賀鳶』を、尾上松緑の主演で上演。松緑にとっては祖父2代目の当たり役だったので、自分のものにしたいところ。中村雀右衛門、中村勘九郎など、脇がいいので見応えがある。もうひとつは、中村七之助の『鷺娘』。
第3部の前半は中村勘九郎の舞踊劇『舞鶴雪月花』で、祖父17代目勘三郎のために作られたものを、父18代目を経由して継承。
3部構成で、最後の「雪達磨」が圧巻。雪ダルマが踊るという、写真で見れば小学生の学芸会みたいなものなのだが、これが実に面白く、舞踊劇とはこういうものなのかと思わせる。
最後が泉鏡花の戯曲『天守物語』で、もう演じないかと思われていた坂東玉三郎が10年ぶりに富姫を演じる。市川團子の『ヤマトタケル』を見て、彼を相手役にやりたくなったそうだが、その期待に応えて、團子は立派につとめた。
演出も玉三郎で、舞台装置は4本の柱だけという、半世紀前の前衛劇みたいだが、照明と音楽に凝りに凝って、歌舞伎でも新劇でも前衛劇でもない、「玉三郎ワールド」としか言いようのない世界を提示している。
(作家・中川右介)