和歌山毒物カレー事件の真相に肉薄した『マミー』 死刑囚・林眞須美は真犯人なのか?

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気になるのは犯行の動機だ

 ネタバレになるので詳しくは書けないが、映画の後半はさらに衝撃的だ。事件当時に報じられた通り、夫の健治は自らヒ素を飲んで保険金詐欺を働いていた。半年間の入院で2億円もの保険金を手にしたというから驚きだ。その旧悪を健治はカメラの前で洗いざらいしゃべり、家族以外の仲間もいたことを告白。その勢いで検察から取引を持ち掛けられたことまでぶちまけるのだから、意外性の衝撃波が幾重にも襲ってくる。

 林眞須美は犯人なのか。それとも無罪なのか。それは分からない。この映画の主張を鵜呑みにするのは危ういという気もしなくはない。

 だが気になることがある。犯行の動機だ。眞須美はなぜ鍋にヒ素を入れたのか。何が目的だったのか。それが明らかにされないまま裁判は進み、死刑が確定してしまった。刑事事件では動機は重要な犯情なのだが。

 2009年に最高裁によって上告が棄却されたとき、新聞各紙もこの点を問題視した。以下は日本新聞協会のサイトからの引用である。

「具体的な犯行の動機が一、二審はもとより、上告審でも一切、明らかにならなかった」(北海道新聞)

「動機や目的は毒物カレー事件の核心部分の一つだ。(略)正統な手続きにのっとり、犯人しか知り得ない事実を供述させるのが犯罪捜査というもので、死刑事件ならなおさらだ」(中日・東京新聞)

「検察側は動機について『住民から批判されて激高した』としたが、一審は『未解明』、二審も『断定は困難』だった。(略)『なぜ』という根本的な疑問を残したままの決着に、やりきれない思いの人は少なくないだろう」(南日本新聞)

 今もって動機が未解明なのは言うまでもない。

 和歌山県といえば昨年12月の「紀州のドンファン事件」の判決が思い出される。同県田辺市に住む資産家の野崎幸助さんを殺害したとして元妻が逮捕されたが、一審の和歌山地裁は無罪判決を下した。「疑わしきは被告人の利益に」という司法の原則により、元妻は無実を勝ち取ったわけだ。この判決の裏には死刑囚から生還した袴田巌さんの事件が影響しているのではないかとさえ思えてくる。

 では和歌山毒物カレー事件はどうか。眞須美は死刑判決を不服とし、今も獄中から無実を訴えている。司法は彼女にどう対処するのか。果たして死刑は執行されるのだろうか。

(文=森田健司)

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