『逃走』が描く逃亡犯・桐島聡 血まみれ爆破事件の「悔悟」と「逃げる理由」
映画は桐島がいつ逮捕されるかわからない緊張感の中で逃走を続け、日雇い仕事に甘んじて暮らす姿を描いている。活動メンバーの宇賀神寿一(逮捕され懲役18年)を慕っていたが、いつしか宇賀神とは音信不通に。他のメンバーが摘発されていくのを見ながら、彼は一人で潜伏生活を続けた。
「内田洋」という偽名を名乗り、最初に入った建設関係会社では仕事仲間が暴力沙汰を起こしたため警察の介入を恐れて逃走。その後は藤沢市の工務店に住み込みとして入り、最後までここに勤めた。
ブルースやロックを好み、月に一度、音楽好きが集まる藤沢市内のライブバーにも足を運んだ。結婚を意識した女性もいたという。
旧日本軍による戦争が侵略戦争だという信念は揺るがず、「日本はアイヌと沖縄を支配し、東南アジア、中国、朝鮮半島の人々を支配した。現在は日本企業がアジアを支配している」といった発言をしている。その考えは晩年まで捨てなかった。そういう意味で彼は死ぬまで活動家だったといえるかもしれない。
劇中の桐島はひたすら逃げる。逃げながら、爆破の結果を後悔する。彼が関与したのは人命を奪う血まみれの事件だったからだ。
だが自首しようとはしない。なぜなら「逃げることが戦うこと」と信じているからだ。いわば確信犯である。その確信犯は若いころの罪を十字架として背負い、人生を棒に振った。自首するという道もあったはずだが、国家権力に屈服することを自己に許さなかった。
こうした“信念”を桐島は50年間も抱えて生き続けた。健康保険もないため歯医者にもかかれず、歯がボロボロだったとも報じられている。末期がんに至るまで入院しなかったのは身元がばれるのを恐れたのもあるが、健康保険に未加入だったこともあるだろう。