「記憶」は失われても「感情」は残る
うれしい、悲しいというような出来事の「記憶」と、実際に体感するうれしい、悲しいという「感情」は密接に結びついているように思われます。たとえば、大切な人との別れが悲しいというような感情は、その人との大切な記憶が存在するからなのだといえます。
記憶を喪失していく病気にアルツハイマー型認知症があります。病状が進行するにつれて記憶の保持が困難になっていきますが、こうした患者では同時に感情も消えてしまうのでしょうか。
アルツハイマー型認知症患者17人と、比較をするための健常者17人を対象として、記憶と感情について検討した研究が、2014年9月、認知行動と脳神経に関する学術専門誌に掲載されています。
この研究では、被験者に、悲しみや幸福の感情を体感させるための映画クリップ(悲しみを誘導する映像と幸福を誘導する映像)を見せ、悲しみ、幸福、それぞれの感情の変化と記憶の状態について調査しています。
研究の結果、認知症患者では悲しみ、幸福に関する映像の記憶をひどく損なっていました。認知症患者のうち4人は、悲しみを誘導する映像の事実、詳細を思い出すことができず、さらに映像を見たことさえ覚えていなかった患者もいました。