意識がなくなる直前まで俳句を作り続けた患者さんがいる
「病舎裏 紫陽花の藍 四つ五つ」
初めて週刊誌で佳作に選ばれて掲載された句で、W君は「これは『三つ四つ』ではダメ、『四つ五つ』でないといけないんです」と、うれしそうに教えてくれました。
「初外出 薄紅葉にも 眩暈せん」
「柿一つ カクみて明日は 見えざるも」
「行く春や 枕に子規の 病日記」
病状の悪化を知らされ、痛みに耐えながらも、W君は「カリエスだった正岡子規はもっと苦しんだんです」と言っていました。そして、抗がん剤治療を受けながら、口癖のように「あー、忙しい忙しい」と言っては俳句に打ち込んだのです。
■瞬間、瞬間の癒やしが死の恐怖に立ち向かう心を支える
短歌も作りました。
「寒風の 中にバス乗る 見舞い母 去り行きてなほ 窓辺離れず」
がんの患者さんには、病気と闘いながら自宅や病室で絵手紙を書く方、折り紙をされる方、パソコン相手に将棋を指す方、いろいろな方がおられます。特に趣味にしているわけではなくても、自分で好きになれるものがあり、時間を忘れることができる――。落語を聴くこと、お孫さんの写真を見る……その時、一瞬一瞬だけかもしれませんが「癒やし」になっているのだと思います。