がん治療後に胃ろうを作ったことで仕事で活躍できるように
先日、医師たちのある会合が開かれ、某老人病院に勤務する医師が、こんな挨拶をされました。
「私は老人病院で、毎月4、5人をみとります。ほとんどが老衰か嚥下性肺炎です。胃ろうは一切、作っていません。人工呼吸器などの延命処置も行っていません」
私はこの挨拶を聞いて元開業医のFさん(78歳・男性)のことを思い出しました。Fさんは5年前に喉頭がんを発病し、喉頭を温存した手術、放射線治療、化学療法を受けました。その後、がんは頚部に2度再発しましたが、小規模な手術で切除できました。
しかし、それからFさんは「食事をするとむせる」ことに悩まされます。食べ物が気管に入って誤嚥性肺炎を起こし、そのたびに緊急入院して抗生剤の投与を受け、危機を脱するという状態が続いたのです。最近は飲み込みに気を使うあまり食事量が減り、げっそりと痩せてしまったそうです。
そんなFさんを心配して、娘さんから「本人は死ぬ覚悟ができているようですが、なんとかならないものでしょうか?」と相談を受けました。最近の血液検査のデータを見せていただくと、アルブミン(栄養状態を見る主なタンパク質)が低下しているのが分かりました。私は、とっさに「栄養状態を回復するために胃ろうはどうだろう? ご本人はどう思っているのでしょうか?」と尋ねました。