「手洗いが外科医の人生を決める」そう言っても過言ではない
私は、手洗いする3分ほどの時間を、手術に臨む自分自身を最終チェックする時間にしています。若いころとは違って、いまは頭にヘッドライトや拡大鏡をつけているので、そうした機材がピシッと真ん中に装着できているか。キリッと引き締まった表情をしているか……鏡の向こうの自分に問いかけます。仮面ライダーではありませんが、変身ヒーローがしっかり変身できているかどうかを最後に点検するイメージでしょうか。
手洗いは、これから新たな手術に臨むに当たって、心も体も面構えもすべてが整っているかどうかを確認する最後の場なのです。
外科医になって以来、これまで8000件以上の手術を執刀してきました。手洗いはその倍以上、2万回は洗っているでしょう。かつては、1日に4回も5回も手洗いする機会が当たり前のようにありました。手洗いはいったん正しい方法を身につければ、自転車の乗り方や泳ぎ方と同じように体が勝手に覚えてくれるものです。ですから、私の体には正しい手洗いがしみついています。
手洗いの基本中の基本は、手に取ったせっけんをしっかり泡立てて、手と腕に満遍なく擦り込むことです。せっけんを泡立てるのは泡で消毒するためもありますが、洗い漏れを目で確認するという意味もあります。泡がついていないところがあれば洗い残しがあるということですし、流水ですすいだ後、泡が残っていればそこも洗い漏れだとわかります。