「美しい死」に感じる造詣の深さ 病理学者・森亘先生の言葉
以前、私が勤めていた病院にも、謙虚な、姿勢の正しい方がおられました。長年、整形外科部長として勤務された先生で、ある知事のご親戚にあたられる方と聞きました。たまたま廊下でお会いすると、ぺいぺいの私に対しても、足を止め、礼をされるのです。私も思わず足を止め、礼をします。いつもとてもすがすがしく感じたのでした。
自慢の話になりますが、私の父は元気な頃は背筋がすっきりとして、姿勢が良かったように思います。長年、鉄道員として働いていましたが、過去に近衛兵でありました。私は、「お父さんがあんなに良い姿勢なのに、どうしてあなたは猫背なの?」と注意されたことが何回もあります。それを気にもとめず、少しも直さなかったからか、今になって腰痛に悩まされています。自業自得なのかもしれません。
森先生は「美しい死」の中で、「国手」という言葉を書かれています。
「国手とは、おそらく、国を支えるという程度の意味でありましょう。これは上医、すなわち優れた医師は国を癒やすと言う言葉から生まれたものであり、『上医は国を治し、次は人を治す』と記されております」
医師に、しっかりした知識、教養、品位を求めているのです。森先生の「美しい死」にあるその言葉に、私にはとても到達しえない造詣の深さを感じました。