「放っておいてもいいかなぁ」と考えていた…映画監督のグ・スーヨンさん腎臓がん手術を振り返る
最新の技術に興味があった
小学生の頃から「死」について考えてきたんです。いじめられっ子でね。その頃からすでに「偶然生まれ、いずれ必ず死ぬ」という死生観を持っていましたから、がん宣告も自然に受け入れられたのだと思います。
そんな死生観があったことと、かなり早期で見つかったことや腎臓がんは進行が遅いと聞いたので、自分としては「もう60歳すぎだから放っておいてもいいかなぁ」と考えていました。でも医師は、「こんなに早期で見つかったのだから手術がおすすめです。うちは『ダヴィンチ』(手術支援ロボット)がありますし、低侵襲で体への負担が少ないですよ」と手術一択の様子でした。
そもそも非日常が好きで、手術も大好き。ダヴィンチという最新の技術にも興味があったので、数日後に「手術お願いします」と返事をしました。初めは3月の予定でしたが、肋骨の痛みが残っていたので5月になりました。
手術当日は、まず手術室に入る前のサブ室がだだっ広いことに感動しました。複雑な設備がズラッとあって、患者1人につき麻酔科の医師や看護師ら計10人ぐらいで担当するようでした。しかも、執刀医は別の部屋でモニター越しに機械を操作するんですよね。それが1フロアに何ブースかあって、とにかく広い。見たことのない近未来の異空間にワクワクドキドキでした。後に「撮影で使えないかなぁ」と先生に聞いたら、もちろんダメでした(笑)。
手術は3時間の予定が4時間かかりました。その理由が内臓脂肪の多さ。見た目は普通なので想定外だったらしく、医師いわく「内臓に脂肪が多くて、がんにたどり着くまでに一番時間がかかりました」ですって。
がんは豆みたいに包まれていたので散らばらず、がんの中では転移しにくいタイプだったようです。リンパ節もセーフで、見た目にも転移はないと判断されて、放射線も抗がん剤もなし。入院は1週間ぐらいでした。今は3カ月に1回通院しています。
手術前の1カ月と、手術後の1カ月は禁酒禁煙でした。
まったく苦しくなかったので、そのまま続くかなと思いましたが、やはり映画の編集作業をしているとたばこに手が伸びてしまって、喫煙はすぐに復活。ただ、お酒はだいぶ弱くなって、週3日は飲み歩いていたのが、今は月に2~3回に減りました。肋骨3本折ってから歩かなかったせいで足腰の筋肉が落ちたので、散歩で強化しているところです。
じつは事故に遭った日、朝方4時まで一緒に飲んで構想を話していたのが、6月29日から東京で公開になる映画「幽霊はわがままな夢を見る」の関係者でした。
事故は運が悪かったですけど、腎臓がんは早期発見できました。画像から小さな腫瘍を発見してくれた放射線科の医師が本当に優秀で助かりました。
(聞き手=松永詠美子)
▽1961年、山口県生まれ。在日韓国人2世。26歳でCMディレクターとしてデビューし、94年に「GOO TV COMPANY」を設立。数々のヒットCMを作り出す。2001年に小説「ハードロマンチッカー」を発表。03年には「偶然にも最悪な少年」で映画監督デビューした。6月29日から最新作「幽霊はわがままな夢を見る」が上映予定。
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