認知症になると本当に間違えたことを他人のせいにするようになるのか
アルツハイマー型認知症でも食べた内容、味は忘れない
アルツハイマー型認知症だというその質問者さんは、「見当識障害はあるが、前日に食べたものや、その味は覚えている。味覚の記憶は残りやすいのか?」。
見当識障害とは、時間や場所、人物を認識・理解する能力が低下した状態をいいます。記憶障害と並んで比較的早くから現れる障害で、例えば時間に関して認識しづらくなると、出発の時間に合わせて準備をするのが難しくなったり、長時間待てなくなったりします。
この質問者さんに対する私の回答は「食べたものや味の記憶は残りやすいでしょう」というもの。しかし、これには少し説明がいります。
言葉で表すことができる記憶を宣言的記憶といいます。宣言的記憶には、エピソード記憶、意味記憶があります。エピソード記憶は、「いつ」「どこで」「何があった」というもの。「3年前、旅行先の台湾で食べたマンゴーがとてもおいしかった」「誕生日の時、家族がケーキを用意してくれていたのが、とてもうれしかった」などはエピソード記憶に該当します。
意味記憶は、物事の意味に関する記憶。「ボールペン」がどういうものか、「メロン」がどういうものかなど、知識の情報です。
宣言的記憶に対して、言葉で表せないものが非宣言的記憶。自転車の乗り方や車の運転の仕方などがそうで、これらは手続き記憶と呼びます。アルツハイマー型認知症では、記憶の内容による分類から見ると、エピソード記憶から障害され、病気の進行に伴い意味記憶や手続き記憶も障害されていきます。
前日に食べたものやその味は、エピソード記憶。本来なら、抜け落ちやすい記憶です。
しかし、エピソード記憶であっても、喜怒哀楽の感情が伴ったものは、記憶として残りやすいのです。よくあるケースが、いじめた方はすっかり忘れているが、いじめられた方は何年経っても忘れないというもの。「怒」と「哀」が伴うから、しっかり記憶に残っている。
この質問者さんは、前日、とても楽しい思いをしながら食事をしたのかもしれない。その食事は、とてもおいしいものだったのかもしれない。アルツハイマー型認知症の「忘れやすさ」を記憶の時間の分類で言うと、出来事から時間・日にちがそう経っていないものを「短期記憶」といい、短期記憶ほどアルツハイマー型認知症の早い段階から抜け落ちていきがちなのですが、そうならないほど、強い感情が伴った食事だったのだと考えられるのです。