石原結實医師「塩分は冷えを和らげ、健康長寿につながる」過剰制限の常識化にNO!
石原結實(イシハラクリニック院長)
厚労省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、1日の塩分摂取量の基準は、男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満。「高塩分=悪、薄味が正義」が世の中の常識だが、これに対し「NO」と言って憚らないのが75歳のベテラン医師だ。詳しく聞いた。
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──食事をご一緒させていただいた際、3~4人で食べる量のフライドポテトを1人で、しかも「追い塩」をして食べる姿に痛快ささえ感じました。
私は毎週日曜日、朝8時半から3時間ぶっ続けで講演会をしています。終わった後、まず欲するのは塩味。講演を終えて体が疲れている。体の声、本能に耳を傾ければ、欲するのは塩分ということになります。
──塩分は必要。
30億年前に誕生した始原生命は、海で発生しました。今でもヒトの血液中と海水中の塩分のバランスはほぼ同じです。血液が「潮」と呼ばれるゆえんです。それなのに、なぜ塩にダークなイメージがつくようになったのか? 発端は米国のダール博士の研究です。
1950年代に日本を含む世界5地域で調査を実施し、60年に発表しました。それによると、日本南部の人々の塩分摂取量は1日13~14グラムで、高血圧発症率が約20%。一方、日本北部では塩分摂取量は27~28グラムで、高血圧発症率が約40%。よって塩分が高血圧や脳卒中の元凶とされ、減塩が常識として世界中に浸透していったのです。
──それに反する論文はないのですか。
1998年、世界的に権威ある医学誌「ランセット」に掲載された論文は、「減塩がいい」という常識を覆すものでした。米国で25歳から75歳までの約20万8000人を対象に実施された国民栄養調査のデータを分析。あらゆる病気で死亡率を比較したのです。すると、食塩摂取量の一番多いグループの死亡率が最も低く、食塩摂取量が少なくなるほど死亡率が上がっていった。高血圧、脳卒中、心筋梗塞においても同様です。
──なぜ塩分を取るべきなのでしょうか。
それについて触れる前に、「冷え」の害をお話ししたい。私が医師になって約50年、一貫して提唱しているのは「冷えが健康寿命を縮める」。人体の60兆個の細胞は「熱」で活動しています。「熱」が著しく低い状態では諸細胞の活動は停滞。老化は加速し、免疫力は低下する。現代人はまさに「熱」が低い状態に陥っているのです。
──体温が1度下がれば免疫力が30%低下すると聞いたことがあります。
心身の生命力や健康度を如実に示すのが「熱」であり、体温にすれば36.5度以上が健康な状態になります。しかし私が東京のクリニックや伊豆のサナトリウムで診察する老若男女はほとんどが体温が低く、35度台です。健康な状態の体温から1度以上低いのですから、どんな不調が出てもおかしくない。
──「冷え」の理由は。
そのひとつが塩分の過剰制限です。食塩は塩素とナトリウムからできています。食塩を多く取ると血液中のナトリウムが増えます。海水は、真水より“氷”結しにくいことからも、ナトリウムは元来、保温性があります。
カロリーゼロでも体を温める作用があるので、今のように暖房設備が発達していなかった厳冬の東北地方では、たくさんの塩分が取られたのです。約100種類のミネラルを含む自然塩を取れば、ますます新陳代謝が促され、さらに体温を上げる。過剰な減塩ではこれらが期待できませんから、「冷え」を招いてしまう。