「手遅れ死亡」が浮き彫りにする無保険の悲劇…民医連の調査結果は氷山の一角
ステージ4のすい臓がんを我慢して…
75歳以上で一定の所得がある人は22年10月から医療費負担が1割から、2割に引き上げられている。高齢者では、この負担増がかなりきついケースがある。それが次に紹介する男性だ。
②80代の男性は、かかりつけ医院ですい臓がんを疑われ、総合病院を紹介された。
受診して検査を受けると案の定、すい臓がんでステージ4、多臓器への転移も判明した。医師からは入院での治療を勧められたが、「がんの治療ともなると高額で支払い切れない」との思いから拒否。疎遠だった2人の子供に迷惑をかけたくないという思いもあったようだ。
その後、胸痛がひどくなり、室内の移動でも息が切れ、5分ほど休まないと呼吸が整わないくらいに容体が悪化。痛みが増悪して我慢の限界となり、救急車を呼ぶと、入院から20日後に亡くなったという。
「医療費が2割負担になった75歳以上の8割が『重い』と感じています。そのため、対象者には1カ月の窓口負担の増加額を3000円までに抑える激変緩和措置があるのですが、私たちの調査では、緩和措置について『手続きをした』のはわずか26%。多くの方が手続きの仕方が分からず、できていませんでした。仮にできたとしても、超過分は申請後の後払いのため、結局、窓口負担を求められることになる。負担の重さを実感している人には、受診控えの解消につながりにくいのです」
死亡原因はがんが50%で、がん検診を受けていないケースが目立ったという。
■非正規で仕事を失い国保に切り替えず
もっと深刻な事態もある。保険証を持っていない人もいるのだ。
「正規の保険証や短期保険証が合わせて24件でしたが、無保険が46%の22件に上ったです」
国民健康保険は毎年1回、保険証が更新される。その際、保険料の滞納があると通常よりも有効期間が短い「短期被保険者証」が交付されることがあり、滞納が解消されると通常の保険証に切り替わる。さらに滞納が1年以上になるとペナルティーとして保険証が没収されて、「資格証明書」になる。資格証明書だと医療機関の窓口負担は10割だ。
民医連の岸本啓介事務局長が言う。
「厚労省の担当者は『たとえば、社会保険から国民健康保険に切り替わるとき、国保については自治体の窓口で手続きできますから保険証を持っていない方がいるはずがない』と言いますが、実際、います。非正規の方が仕事を失うと、国保の保険料負担も重く感じて手続きをしないケースがある。国民皆保険制度のセーフティーネットからこぼれ落ちている人が少なくないのです」
保険証を持っている人でも、かかりつけ医院の受診時に保険証を忘れると10割負担を請求され、保険証の確認が取れた時点で負担割合に応じて返還されることがある。読者の中にもそんな経験があるかもしれない。保険証がなければ常に10割負担だから、当然、つらい症状があっても受診を我慢する可能性が高いだろう。
③昨年の夏は歴史的な暑さに悩まされたが、70代男性は生活保護を受給していて、エアコンを買う余裕がなく、扇風機で我慢。少しずつ食欲がなくなり、脱水状態の末、熱中症により痺れて動けなくなった。生活保護の担当者らが様子を見に行ったところ、部屋でぐったりしているところを発見され、搬送されると案の定、熱中症で、説得の末に拒んでいた入院を受け入れたが、回復した容体が再び急変して、帰らぬ人になったそうだ。
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一部の医療機関は所得が少ない人を対象に、無料か低額で医療を行う無料低額診療を実施している。そこまで厳しくない人は医療費の負担をさらに減らす高額療養費制度や限度額適用認定証などが便利だ。使える制度はとことん使って、健康を守ることが大切だろう。