「手遅れ死亡」が浮き彫りにする無保険の悲劇…民医連の調査結果は氷山の一角

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 4月から新型コロナ治療にかかる医療費が通常自己負担になる。未知の病の脅威が薄れたため政府の助成がなくなるのは当然だが、万が一、コロナ悪化で治療を受けると薬によっては3割負担の薬代だけで20万円を超える恐れもある。最新治療の医療費負担はコロナに限らず重い。そんな中、厳しい医療費負担から治療をためらっているうちに亡くなる「手遅れ死亡」が少なくないことが発表された。

■全国で1万2000件超の可能性も

「手遅れ死亡」について調査したのは、全日本民主医療機関連合会(民医連)だ。加盟する700カ所の病院や診療所、歯科を対象に昨年1年間に経済的な事情で受診が遅れて死亡した人を抽出した。今月19日に公表した資料を見るとかなり深刻な実態が見て取れる。

 まず、具体例を見てみよう。

①60代の男性は、古物商を早期退職後は3匹の猫とアパートで暮らしていた。離れたところに暮らす姉とは20年以上音信不通。収入は1カ月9万5000円の年金のみで生活はギリギリ。外出は、たまに買い物にいく程度で、猫が唯一の癒やしだった。

 ひきこもり状態の男性に異変が生じたのは2年前。腹部の痛みや違和感を我慢していると、さらには少し歩いたりすると息切れを感じるようになった。そして昨年11月2日、いよいよ体を動かすことができなくなって救急車で救急搬送されると、検査の結果、末期の胃がんと多発性肝臓がん、消化管出血が認められたという。

 実は6年前、健康診断で貧血を指摘されていたが、これも放置。いまから振り返ると、貧血はがんや消化管出血の症状だったと思われる。

 しかし本人は国民健康保険に加入して保険証もあったが、年金や貯蓄額の少なさ(70万円)から医療費の3割負担が怖く、受診をためらっているうちに119番直前にはゴミ捨ても困難になるほど病状をこじらせていた。結局、救急搬送の翌日、息を引き取ったという。

 日本は、世界に誇る国民皆保険制度を備える。保険証があれば治療費の支払いは一般にその1~3割で済む。残りは国がカバーする仕組みになっているが、それでも負担に頭を抱える人がいるのが現実で、治療を我慢しているうちに病気を進行させ、瀬戸際で治療に結びついても“時すでに遅し”ということがあるのだ。

 では、手遅れ死亡は昨年、どれくらいあったのか。調査結果を発表した埼玉民医連本部次長の久保田直生氏に聞いた。

「48件です。そのうち男性が77%で、年齢別では60代が最多の33%。次いで70代27%、50代17%となっています」

 全国で48件というと、「なんだそれだけか」と軽く見るかもしれない。しかし、久保田氏が「氷山の一角」と強調している通り、この結果は民医連の700施設に限ったもので、全医療機関に広げたものではない。

 では、もし全医療機関を対象にするとどうなるか。厚労省が毎年まとめる「医療施設調査」で最新の2022年版によると、休眠状態を除いた全国の病院、診療所、歯科の合計は18万1093施設。手遅れ死亡が今回の調査と同じ割合で全国で発生しているとすれば1万2000件を超えることになる。

 大ざっぱな推計値とはいえ、ショッキングな数字で、他人事ではないだろう。

 調査結果に戻ると、世帯構成は「独居」が52%で、住居は「借家・アパート」が47%。独り暮らしで賃貸住まいは孤立しやすい。収入が不十分だと生活が圧迫されかねないが、住居の2番目は「持ち家」で27%だ。

「19人の65歳未満に限定して雇用形態を見ると、非正規が21%で、無職が58%。無職というのは手遅れ死亡のときにたまたま無職であって、ずっと無職ではなく、以前は仕事をされていました。でも多くは非正規で、コロナ禍などで仕事を失ったまま復職ができていないのです。この結果は、現役世代でも、貯蓄が少ないと途端に生活が困窮して手遅れ死亡につながりやすいことを示しています」

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