あなたの仕事が「天職」と言えない理由…不安や恐れにさいなまれながら仕事をする人たち
内面の促しに従い、進んで引き受ける仕事こそが天職
人生において自分自身を「特別な存在だ」と思うか、あるいは「思っていたより普通かもしれない」と思うか。
「特別でなければならない」という考えを持っている人は、常に他者と比較している。自分が取り組む仕事についても、他者から認められるということが先に立っているかもしれない。
アドラー心理学の第一人者で哲学者の岸見一郎氏が「特別になろうとしないが、同じでもない」生き方を探った新著『「普通」につけるくすり』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
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詩人のリルケは、自作の詩を送ってきた若い詩人カプスに、今後批評を求めるようなことは一切やめるようにと言い、夜のもっとも静かな時間に「私は書かずにはいられないのか」と自分自身にたずねるよう助言しています(Briefe an einen jungen Dichter)。
そして、「私は書かずにはいられないのか」と問うてみて「書かずにはいられない」と答えられるのであれば、「この必然性に従ってあなたの生活を建てなさい」と言っています。
ここでリルケが言う「書かずにはいられない」は、ドイツ語ではIch muß schreibenで、これは「私は書かなければならない」とも訳せます。しかし、義務感で書くということではなく、内面的な促しに従って書くということです。
「書かずにはいられない」と思ったら書くしかありません。その詩が売れるかどうかは重要ではなく、売れなければ書かないというのであれば、それは内面的な促しに従って書いた詩とはいえません。
リルケは、自分の詩を他人の詩と比べたり、詩を出版社に送って編集者に拒絶されると不安に思ったりするようなことを一切やめるようカプスに助言しました。
詩を内面的な促しや「必然性」に従って書く、つまり「書かずにはいられない」のであれば、他者からの評価はどうでもよくなり、他者からの評価に一喜一憂することはなくなります。
とはいえ、人からどう評価されるかは気にかかります。私は詩人ではありませんが、原稿を編集者に送っても拒絶されるのではないかと思うと不安になることがあります。しかし、そういうことを一切やめるようにとリルケは助言しているのです。