誕生から60年「スナック」は日本に10万軒以上 学術研究者に聞いた「変遷と最新事情」
総軒数は1位宮崎県、2位青森県、3位沖縄県
高級エリアで産声を上げたスナックは、80年代に入ると駅近などにあるソシアルビル(飲食店が入居する雑居ビル)で花開く。社用族が接待で使い、そしてバブルがはじけて軒数はぐっと減った。
とはいえ、地方でのスナック人気は今も昔も変わらない。スナックの総軒数は対人口比(10万人)で割ると、1位宮崎県、2位青森県、3位沖縄県で東京は44位だ。谷口氏は「そもそも、スナックの位置づけが都心と地方では異なる」という。
「地方は職と住が近いでしょ。自営業も多く、地域に関わらずに生活するのは難しいんです。そういう人たちの交流、情報交換の場がスナックなんですね。昼の公共圏が図書館なら、スナックは夜の公共圏。ここで選挙や商売談議もされるわけです。それにスナックがある地域は犯罪が少ないというデータもあるんですよ。東京で暮らしているとピンときませんが、地方では若い人もスナックで飲むのが当たり前。コミュニティーの場として存在する地方のスナックこそ、本来の姿と言えるでしょうね」
80年代に現在のスナックの原型が出来上がり、はや40年。コロナ禍での営業自粛を機にママたちの引退も増えた。スナックはママの人柄や人脈で成り立つ商売なので一代限りが多い。その一方で、若い世代によるニュースナックが誕生しつつある。
「たとえば22年に荒川区にオープンした『街中スナック』。コロナを経験し、いろんな世代がつながる場にと思い、始めたと話していました。国立市の『水中』のママは25歳という若さ。一橋大在学中にアルバイトしていた水中の前身の店じまいで引き継ぎを決意。若い人にも来てもらい街の社交場であり続けるよう、と思ったそうです。こうしたニュースナックを訪れて感じるのは、街づくりの発展系のようだなと。スナックってコミュニティーの場ですから、そういう人たちにとっては親和性が高いんですね。だからカラオケがないことも。客も若い世代なので、ノンアルコールを用意したり、禁煙にしているところもあります」
最近では、新橋のスナックを案内する入門ツアーもある。参加者の多くは若い女性だそうだ。
スナックは「家の延長のようなもの」と著者。アップデートしてもスナックは心のオアシス、コミュニティーの場なのである。
▽谷口功一(たにぐち・こういち) 東京都立大学法学部教授。専門は法哲学。著書に「日本の夜の公共圏 スナック研究序説」(共編著)、「日本の水商売」ほか。