小沢コージ
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小沢コージ自動車ジャーナリスト

雑誌、web、ラジオ、テレビなどで活躍中の自動車ジャーナリスト。『NAVI』編集部で鍛え、『SPA!』で育ち、現在『ベストカー』『webCG』『日経電子版』『週刊プレイボーイ』『CAR SENSOR EDGE』『MONOMAX』『carview』など連載多数。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのカーグルメ』パーソナリティー。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)、『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた 27人のトビウオジャパン』(集英社)など。愛車はBMWミニとホンダN-BOXと、一時ロールスロイス。趣味はサッカーとスキーとテニス。横浜市出身。

スズキ スイフト 5MTに乗った いまどきマニュアル車の方が燃費イイなんてアリ?

公開日: 更新日:

スズキ スイフト HYBRID MX 5MT(車両価格:¥1,922,800/税込み)

 今春発売されたスズキの世界戦略コンパクト、新型4代目スイフト。そのノーストロングハイブリッド戦略は先日紹介したばかりだが、さらにシブいネタとして興味深かったのが、最良燃費グレードが5MT車だったことだ。

 最近燃費が良いクルマといえばAT車に決まっている。スーパーカーでもMT車よりも実質ATたるツインクラッチミッション車の方が速いうえに燃費が良かったりするし、そもそもMT車の設定がない場合も多い。今後モーター駆動でギアのいらない電気自動車が増えると、ますますそうなるだろう。

 だが新型スイフトはその常識に反し、最良燃費グレードは中間グレード、ハイブリッドMXの5MT車でWLTCモードでリッター25.4kmを記録する。これはストロングハイブリッドの約1割落ちであり、同グレードのCVT車のリッター24.5kmを凌駕する。

 それもいまどきの6段MTではなく、5段MTで最良燃費を記録するから面白い。そもそもMTはエネルギー伝達効率に優れるが、エンジン回転域を幅広く使うのと、シフトチェンジで空白が生じるのでそこでエネルギーを失う。

 かたや今のAT車やCVT車は元々の欠点だったメカニカルなロスや摩擦が減り、伝達効率が上がっているのと、シフトチェンジを絶え間なく行っているので時間的ロスも少ない。

幅広い回転領域で使っても熱効率が落ちない新エンジン

 では新型スイフトはなぜ、5MTで最良燃費が出るのか? スズキのエンジニアを直撃すると「幅広い回転領域で高い熱効率を発揮するいいエンジンができたから」という。それが新開発の1.2ℓ直3エンジンであり、単純に低い回転数で82ps&108Nmのピークパワー&トルクを発揮するだけじゃない。幅広い回転領域で使っても熱効率が落ちないのだ。

 そこで筆者も先日、スイフト5MTを借り出し、長距離燃費を測ってみて驚いた。最初はエンジン回転上限を1500回転と決め、そこでシフトアップしながら走ったところ、リッター25kmのモード燃費と同等の低燃費を記録した。

 だが次に回転数を2000回転に上げてシフトアップしても、燃費が意外に落ちないのだ。今回は最初からエンジンが暖まっていたこともあって、リッター26km台まで到達した。

 最後にエンジン回転を2500回転上限で走ってみたところ、ようやっとリッター22km台までダウン。だが、それにしてもストリングハイブリッドなしのコンパクトカーとしてはかなり燃費がいい。

エンジンの技術進化で低コスト低燃費を実現

 そもそも新型スイフトの主たる動力源は、1.2ℓエンジンにマイルドハイブリッドを組み合わせたもので、高価なリチウムイオン電池をさほど使用しない。そこで200万円切りスタートの低価格を実現できたし、ほとんどのグレードが車重1トンを切るし、他の競合ハイブリッドコンパクトと比べると価格も20万~30万円は安い。それは根本的に高くて重い電池を買わないで済むのと、地味なエンジン効率アップがもたらす恩恵だ。

 昨今、自動車メーカーがエンジン技術で頑張ってるという話はさほど聞かず、欧米メーカーを中心に、EVにいくら投資したとか、逆にエンジン開発を凍結するとかそんな話が多かった。しかしスズキはエンジン技術を着実に進化させ、ゆっくり目だが脱炭素化と共に低コスト化を実現した。

 確かにEVの普及も結構だし、長期的にはクルマの電動化は進むのだろう。だが、今のEV化は根本的なクルマの高コスト化と重量化を招き、ユーザーのサイフを強く圧迫し、路面もより深く痛めつけるようになる。

 スズキが、他社があまりやらないエンジン技術進化で生み出した、低コストで低燃費なスイフト5MT。見過ごされがちだが、これはこれでアリ、だと思ったのは自分だけではないはずだ。

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