経済アナリストの森永康平氏「円安を止めるために『金利を上げるべき』と主張する人がいるのは問題」
金融政策によっては、消費の冷え込みを加速させデフレへ逆戻りもある?
――今後、さらに金利が上がるとすると、円安が止まると予測できます。そのタイミングとその後の見通しについては?
円安がいつ止まるのか、いま明確に言えるのは、アメリカが利下げを始めたタイミングです。この間日銀の介入があったとされる1ドル=160円辺りを抜けるか、抜けないかと動いているうちに利下げが始まって、円高に転換していくというのが現在の私の予想ですね。
問題なのは、国会議員や評論家のなかには円安を止めるために「金利を上げるべき」と主張する人がいることです。
どういうことかというと、まず国民が苦しんでいるのは物価高であり、その原因は円安の影響で、海外から輸入する原油、エネルギーや食糧が高騰してインフレ状態にあるから。円安の原因は、日米の金利差にある。現状ドルを買って円を売れば金利差の分だけ儲かるわけですから円安は止められませんよね。だから日本の金利を上げて円安を止めようと言っているんです。しかし金利を上げて、たかだか1ドル=130円になったとしても、先ほど言ったように消費が悪くなるだけなんですよ。
確かに円安による物価高はあります。世界のインフレ率と重ねてみるとわかりますが、インフレになるタイミングが半年ほど遅れているんです。アメリカのインフレ率が3.4%まで落ちてきていますので、日本も遅れて2%を下回るくらいまで物価は下がると思います。そこに円高への転換が重なればなお物価上昇は鈍化するでしょう。
世論でいうと「円安憎し」で、円安を放置している日銀が悪い。欧米の利上げにならって日本も上げるべきだという見方が強い。私はこの流れが非常に怖いし、この論調に押されて植田総裁が利上げをバシバシやるようなことになると、日本のマクロ経済はかなり厳しいものになりデフレに戻る可能性もまだまだ残されていると私は考えているのです。
■現状、物価の上昇に賃金が追いつかない状況で政府の対応がキーとなる
――仮に金利が上がるとすれば、その分所得が増えれば相殺されるようにも思います。
私は実質賃金がプラスになるためには強烈な賃上げが必要だと思っています。今年の春闘が終わった結果を見ると、確かに大企業で5%以上、中小企業で4%以上賃上げが行われたと報じられています。この30年間で一番大きな上昇幅です。ところがこの調査対象の企業というのは、一部の大企業と中小企業だけなんです。多くの中小企業は、コストの上昇を適切に価格転嫁できないし、人手不足もありますから賃上げする原資がない。報道されているほど賃金は上がっていません。
では国と政府が所得をあげるために何ができるかというと、例えば社会保険料を下げる、消費税を減税する、はたまた現金給付をすることが挙げられますが、実際にはどうでしょう。岸田政権は正反対のことをやろうとしています。
少子化対策の財源として「こども・子育て支援金制度」の導入が決定しました。 5月に電気代・ガス代の補助が打ち切り予定です。再生可能エネルギーの賦課金引き上げが決定です
岸田政権が所得減税をやるといっても、ワンショット(一度きり)でたかだか4万円くらいですよ。エネルギーの補助金を打ち切られて、ガソリン代が上がって、毎月の電気代の請求に賦課金の値上がった分が重なってくると、4万円なんてすぐ消えます。
いま政府に求められているのは、しっかりと国民を支援していくことで、日銀は拙速な利上げはしないということだと思います。しかし植田総裁はじめ日銀の内部の審議員も利上げモードですし、岸田政権も国民負担増の政策がかなり多い。そう考えると日本のマクロ経済自体は非常に政策リスクが高いでしょう。