<第6回>五輪SP本番直前にかけた母への電話で光が見えた
【連載】 鈴木明子 スケート人生「キス&クライ」
女子フィギュアSP(ショートプログラム)当日の2月19日正午過ぎ。
本番直前に悩みを抱えた私が母(ケイ子さん=64)に電話をするのは長いスケート人生でもまれなこと。それでも、胸の中の思いを伝えられるのはひとりしかいません。呼び鈴が鳴った数秒後、電話口に出た声の主はいつもの聞き慣れた明るい声でした。
「どうしたの? 本番ってもうすぐじゃないの?」
驚いたような口調で語りかけてきた母。私は声を聞いた瞬間、堰を切ったように今の気持ちを話しだしました。
直前に終わった最後の公式練習で、ジャンプが跳べなかったこと。足の痛みですさむ気持ち。本番への不安、孤独……。ありのままの心中を伝えると、母は優しいながらも、問いかけるように語ってくれました。
「ジャンプのミスが何なの? ジャンプだけじゃないでしょ、あなたのスケートは。ここまできたのだから、あなたの今できることをやればいいのよ。そうじゃない?」