素質を見抜くだけでなく「獲得後のフォロー」が大切だ
この間は久々にアタマにきたね。あまりに、むしゃくしゃしたんで、昼間から酒を食らったよ。
数年前にオレが担当してドラフト上位で獲得した高校生右腕。最近、伸び悩んでるって聞いたんで、球団関係者を通して球場に激励に行くって伝えたんだ。そしたら、あろうことか球団関係者の前で「チェッ!」と舌打ち、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたっていうんだ。
言っておくけど、オレは担当だよ。感謝されることはあっても、嫌な顔をされる筋合いじゃない。気分は最悪、酒の力も借りて、つい、部長にグチをコボしたんだ。
■コーチに内緒で
すると「おまえ、ちゃんとアイツのフォローをしてるのか?」と、こう言った。
「選手は取った後のフォローが大切なんだ。例えば、アイツの持ち味は球威があって球筋のいいストレートだろう。ファームの首脳陣は当然、長所を伸ばすことを最優先するさ。けど、いくら球威があったって、ストライクが入らないんじゃ一軍で使えない。少しくらい球速が落ちても、球筋の良さを生かした上で制球を改善する方法ってのがあるはずだろう。かといって首脳陣と違うことを言えば角が立つし、選手も混乱する。ときにはコーチに内緒だぞとクギを刺した上で、知恵を授けるとか、方向性を示してやるのもスカウトの大事な仕事じゃねーか。獲得したら知らんぷり。ボチボチ、一軍で投げてなきゃおかしいだろうと尻をたたくだけじゃ、選手は素質を100%発揮できねーし、おまえのことも信用しないって」