川崎右SB山根視来は「酒井宏樹」の壁を乗り越えられるか
山根視来(川崎フロンターレ/28歳)
「『夢の舞台』だったのが、自分次第で『入れる』ってところまで来ている。常に高い意識を持って、これからを大事にしたいと思ってます」
2021年12月6日のJリーグアウォーズ。
2年連続でベストイレブン入りした山根視来(川崎/28)は、日本代表に対する率直な思いを口にした。
実際、昨年3月の韓国戦で代表デビューを飾るまで、彼は候補すらに挙がったことはなかった。
それが宿敵相手に先制弾を奪うという強烈なインパクトを残し、8カ月後の11月のカタールW杯最終予選の重要局面であるベトナム、オマーンとの2連戦に先発。連勝に貢献し、右サイドバック(SB)の先輩・酒井宏樹(浦和)に肉薄している。20代後半での急成長ぶりは、見る者を大いに驚かせている。
17日から千葉・幕張でスタートした日本代表の国内組合宿。その直前に森保日本の常連右SBの1人である室屋成(ハノーファー)が右足首を負傷し、今月27日と2月1日に迫った最終予選の中国、サウジアラビア戦出場が絶望的という悲報が舞い込んだ。
■初のW杯最終予選出場で経験したプレッシャー
2014年ブラジル、2018年ロシアの両W杯を経験した酒井宏樹は健在とはいえ、OA(オーバーエージ)枠で東京五輪に挑んだ後はケガを繰り返し、万全の状態を維持できたとは言えなかった。
今年4月に32歳を迎えることも視野に入れると、やはり同等のパフォーマンスを出せる人材が必要だ。こうした中、2021年に代表6試合に出場した山根の存在感は、日に日に増している。
W杯最終予選に初先発となったベトナム戦では「『もし負けたら…』ということも考えましたし、今までに経験したことのないプレッシャーを感じながらピッチに立ちました」と偽らざる本音を吐露した。
しかし、試合が始まればタテ関係を形成する快足アタッカーの伊東純也(ゲンク)を巧みにサポート。彼が値千金の決勝点を奪えたのも、背後にいた山根のクレバーな動きがあったからだ。
続くオマーン戦も、酒井宏樹のケガが完全に回復しなかったこともあり、続けてスタメン出場。
中東ならではの独特な雰囲気を初めて体感しながらも、堂々たるプレーで相手の突破を止め、安定感ある守備を演出した。
この一挙手一投足には森保一監督もご満悦の様子だった。
“雑草魂”男に慢心なし
2021年J1での37試合出場2ゴールという「鉄人」ぶりや川崎の連覇への貢献度を含め、彼の活躍度は本当に凄まじい。
1年前には「強度や対人のところの強さは圧倒的だし、正直、代表の中でも化け物だと思った」と羨望のまなざしで見つめていた酒井宏樹とほぼ同列に並んだと言っても過言ではないところまで辿り着いた。
それでも<雑草魂>で這い上がってきた男に慢心はない。
東京ヴェルディの下部組織時代は高校生年代のユースに昇格できず、茨城県のヴィザス高校へ。そこで東日本大震災に遭い、地元の横浜桐蔭大で練習環境を提供してもらうという苦労も味わった。
同大から2016年に湘南入りし、Jリーガーの一歩を踏み出した直後にケガを負い、1年目は出番を得られず、チームもJ2に降格してしまう。
翌2017年に本格的にプロとしての実績を積み重ね始め、3年後の2020年に川崎に移籍した。
ここでようやく大輪の花を咲かせたわけだが、どれだけ遠回りの人生を歩んできたことかーー。
■ネイマールと互角に戦ってきた男を乗り越える
山根が恩師と慕う湘南時代のチョウ・キジェ監督(現京都)は「諦めずに真っ直ぐ謙虚に進んでいけば、必ず実になる」と言い続け、日々の練習に付き合ってくれた。
ディテールにこだわる指揮官から叩き込まれた哲学を胸に努力し続けた結果が、日本代表右SBでの試合出場なのだ。
もちろん酒井宏樹という壁は、まだまだ高い。 フランス1部でブラジル代表のネイマール(パリSG)らと互角に渡り合ってきた男を乗り越え、彼は本当に森保日本の主力になれるのか?
国際経験不足という課題は確かにある。
この1年でそこをどう克服していくのか。
全ての命運は今回の国内組合宿からの取り組み具合と自身がどんな好パフォーマンスに見せられるか、に掛っているだろう。
いずれにしても、カタール本大会に向け、躍進中の山根という存在は、しっかりとチェックしておいた方がいい。