元琴欧州の鳴戸親方「雨降ったら洗濯物濡れる。なぜ分からない?」
嘆きながら目を輝かせていた元琴欧州
だが、まわしを締めて土俵に下り、丁寧に基本を教える親方は、生き生きとしていた。日体大でトレーニング法や栄養学を学び、食事のとり方や休息の入れ方も考え、「時間調整のような稽古やかわいがりはしない」など、時代に合った指導を始めていた。入門前、母国でレスリング選手として体験した指導や環境も、記憶にある。
夏場所後、欧勝馬が十両に昇進した。今年、日本相撲協会の定年に伴って35年間営んだ部屋を閉じた尾車親方(元大関琴風)は、新十両ができて化粧まわしなどの支度をする時が一番楽しかったという。「一緒に着物を選びに行って、若いんだからもっと派手なのを着ろよとか言ったりね」。佐渡ケ嶽部屋の弟弟子にあたる鳴戸親方も、初めてその喜びを味わった。
スポーツ界には自分が受けた指導と成功体験から抜け切れない指導者が多い中、相撲界でこのところ次々と生まれる部屋は、現役時代に意識を高め、実践もしてきた親方たちが、さらに勉強して弟子を育ててみたいと考えて起こしている。
成功体験に基づかない試み。伝統と変化の折り合い。不安も失敗もあるだろう。嘆きが聞こえそうだが、入門者が減っている今、彼らが諦めたら大相撲の未来はない。八角理事長(元横綱北勝海)も「私たちの世代にもまだできることはやるが、若い親方たちの新しい指導に期待している」という。世代を超えた危機感は本物か。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。