(1)セ連続Vのマネジメント術 高津監督は目先の結果に動じず、長い目で選手を信じた
「覚悟しておくように」
この不慮の出来事が、チームの様相を変える。高津監督が不在の間は、松元ユウイチ一軍作戦コーチに指揮を託したものの、7月9日以降は連敗が続き、マジックも消滅。それでも、高津監督は泰然自若としたものだった。
「療養期間中は、割り切ってゆっくりしようかと思って(笑)。いろいろな映像を見て、“野球の勉強”をしてました」
そして監督自身が復帰した時、ミーティングでは選手たちを前にこんな言葉を放った。
「“覚悟しておくように”と伝えました。長いシーズン、ずっとうまくいくことなんてない。選手たち自身が『このままでは終わらない』という気持ちをもって戦って欲しいことを伝えました」
8月はかろうじて勝ち越し。しかし監督の肝は据わっていた。DeNAに追い上げられても、動じることはなかった。それは8月の月間打率、わずか.205と苦しんでいた主砲の山田の起用法からもうかがえた。
「たしかに、決して状態がいいとは言えませんでした。『あそこで凡打してるようじゃダメだ』と言われれば、その通りだったかもしれない。でも、山田は山田。それを忘れてもらっちゃ困ります」
2位のDeNAに4ゲーム差まで詰め寄られた8月26日からの3連戦、山田は1本塁打を含む14打数6安打と、勝負どころでバットが火を噴いた。主将は監督の“信”に応えたのである。
高津監督は投手の起用についてもこう言う。
「全部の試合は抑えられませんから。一度打たれても、次に抑えればいいわけだから」
目先の結果に動じることなく、長い目で選手を信頼する。21世紀のリーダーの姿がここにある。
(次回は主砲・村上宗隆について)
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