名コーチ中西太さんの指導の神髄 空振り三振した選手に「ええスイングや」と声かけた理由
うなだれて戻ってくる選手を前に、機先を制された仰木監督は口から出かけた文句をのみ込む。そうやって、中西さんは選手を守った。
88年のシーズン途中に中日の二軍で埋もれていたラルフ・ブライアントが近鉄に移籍してきて覚醒し、3度の本塁打王を獲得したのも、どれだけ三振をしようと、徹頭徹尾「ええスイングや!」と長所を伸ばした中西さんの功績だった。
■みなが見入った圧巻のフリー打撃
選手時代は5度の本塁打王、3度の打点王、2度の首位打者を獲得。私は中日、中西さんは西鉄でリーグが違ったため、対戦する機会は少なかったが、オープン戦などで見る試合前のフリーバッティングは、圧巻の一言だった。
中西さんが打席に入ると、両軍の選手が一斉に練習の手を止めて観客と化した。今年のWBCで大谷翔平の打撃練習を侍ジャパンのメンバーが口々に「すげえ」と言いながら目を奪われたのと同じ光景だ。
衆人環視の中、中西さんがガツッと詰まる。本人、イテテテッと手を振っているのに、打球はスタンドの中段へ。バットの芯で捉えれば、ほとんどがスタンドの上段か場外に消えていく。規格外のスイングスピード、パワーだった。
まさに怪童。日本が誇る不世出の傑物だった。