“平成のKOキング”坂本博之さん 児童養護施設の卒園生や少年院出身者を支援しながらジム経営
「KOされた瞬間は全く記憶がない」
そんな坂本さんは現役時代、不撓不屈の精神で4度の世界戦に挑戦したが、なかでもボクシングファンの記憶に今も深く刻み込まれた名勝負が、2000年10月11日に横浜アリーナで行われたWBA世界ライト級王者・畑山隆則との一戦だ。
「あの試合はバチバチにやり合って初めてのKO負けを喫したのですが、彼には自分の弱い部分を受け入れて勝負に徹する本当の“強さ”を教わりました」
あのパンチでは絶対に倒れないとあえて打たせた挑戦者と、自分が打たれ強くないことを知っていてガードを固めながら攻め続けた王者。その意識の差が勝敗を分けた。
「リング上でトレーナーに頭を冷やされて、目を開けたら横で畑山選手が勝利インタビューしてるじゃないですか。その姿を見て、ああ、俺負けたんだなって……」
同年の年間最高試合に選ばれたこの激闘以降、坂本さんは首と腰のヘルニアに苦しみながらも現役生活を続け、2007年、完全燃焼し引退した。
「往生際が悪いと思った人もいたかもしれないけど、自分との戦いなんでね。ボクサーとして最後までやり切りました」
現役を引退した翌年に生まれた一人娘は現在、中学3年の受験生。家での父親ぶりは?
「反抗期の難しい年頃ですが、僕はあくまでこのスタイルで。家でも“待ちの愛”ですよ(苦笑)」
現在はフィットネス目的のジム会員が圧倒的に多いが、ボクシングを存分に楽しんでもらうため、事前に脳のCTスキャンおよびMRI検査を義務付けるなど安全管理は徹底しているという。
「真剣勝負の格闘技なので、プロを目指す子には圧をかけますが、会員さんには優しいですから(笑)。ぜひ一緒にボクシングをエンジョイしましょう」
(取材・文=杉田俊人)