サッカー女子W杯のNHK中継決定を巡るドタバタ劇 後藤健生氏が問題提起「結果オーライで終わらせてはいけない」
後藤健生(サッカージャーナリスト)
女子サッカーのW杯オーストラリア・ニュージーランド大会が20日、幕を開けた(決勝は8月20日)。W杯9大会連続出場を果たした日本女子代表(なでしこジャパン)は現在、FIFA世界ランキング11位。W杯1次リーグC組でザンビア(77位=日本時間22日)、コスタリカ(36位=26日)、そして強豪スペイン(6位=31日)と対戦。2011年ドイツW杯以来となる世界女王を狙っているが、直前まで「W杯を放送するテレビ局が決まらない」という異常事態に陥った。
ようやくNHKが放送局に決まったのが開幕1週間前の13日。女子サッカー主要国で「日本だけテレビ放送なし」の屈辱を免れることができたが、今回のドタバタ劇で世界中から「日本は女子サッカーに対して冷淡なのか?」という疑惑のまなざしを向けられたのも事実。観戦試合数7129(20日現在)を誇るサッカージャーナリスト界の重鎮に聞いた──。
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■人気低迷WEリーグ消滅の危機
──女子W杯は今大会から出場国が8つ増えて32カ国となり、賞金総額を前大会の19年フランス大会の約4倍、154億円に設定した。その原資に放映権料を充てようとしたFIFAは「各国が男子W杯には140億~280億円を払うのに女子には1.4億~14億円しか提示してこない」と強気の姿勢を示し、法外な額を吹っ掛けてきたといわれています。
欧州もなかなか放送局が決まらず、欧州放送連合(EBU)が、FIFAと合意したのが6月14日。最終的に放映権料は「かなり抑えられた額」で決着したようです。FIFAは「昨年3月の女子CLに出場したバルセロナが、準々決勝と準決勝で地元カンプノウに9万人を超える観客を集めた」として女子サッカーの価値が高まったことを強調しましたが、バルサの動員力と女子W杯の放映権料アップを同列に語るのは、説得力に欠けると言わざるを得ません。
──日本では昨年末に「放送局はNHKで決まり」と噂されましたが、W杯開幕前まで決まらない事態になるとは、4カ国しかないW杯優勝国としては想定外でした。
今回もし放送局が決まらなかった場合、日本の女子プロリーグ・WEリーグにとって由々しき事態となる可能性もありました。WEリーグはJFA(日本サッカー協会)田嶋会長の肝いりで21年の秋に1試合平均5000人の観客動員を目標に掲げてスタートしましたが、1年目は平均観客数1560人と低迷し、今年は1401人とさらに減らしました。
W杯がFIFA公式ストリーミングサービス「FIFA+」でしかライブ視聴できないという事態を招いていたら、女子サッカーは今以上に人気を失い、WEリーグは消滅の危機に瀕していたかもしれません。ギリギリになってNHKに決まりましたが、サッカー界はWEリーグのテコ入れのために何をしてきたのか、W杯の放送局決定のためにどんな努力をしたのか、まったく伝わってこない。このことも大きな問題だと思います。
──WEリーグはコロナ禍の21年6月に発足が正式決定。同時期に23年女子W杯の招致に成功し、21年夏の東京五輪でメダルを獲得すれば「JFA田嶋会長は任期中に女子サッカーに多大な貢献をなした」と後世に語り継がれるところでした。
田嶋会長は女子サッカーの振興を重要課題として掲げ、WEリーグ発足に積極的に動いたと聞いています。しかし23年W杯の招致に関しては、最終投票直前に辞退に追い込まれました。招致争いでの票固めに失敗したのが理由といわれています。JFAは、W杯招致のためになりふり構わず、泥にまみれながら動いたのでしょうか? WEリーグが観客動員低迷に苦しんでいるのに打開策をどうして講じないのか? 理解に苦しみます。