《杉内俊哉の巻》「熱い男」一度だけ見せた弱気「お願いだから点を取ってください」
そんな男が一度だけ、弱気な態度を見せたことがありました。敵地・仙台での楽天戦。ブルペン投球を終えた杉内は野手陣の元に来るなり、「お願いだから点を取ってください」と頭を下げました。マウンドが合わず、杉内も「違和感しかない」と話していました。
試合が始まると、僕が見ても明らかに腕の位置が下がっており、制球に四苦八苦。野手が頑張って何点か取り、「これだけ点を取れば……」と言っても、杉内は「いやいやいや、ほんとにマウンドが合わないんで、何点でもいいからお願いします」と再び頭を下げる。これまでなら「1点でも取ってくれたら投げ切ってやる」と言わんばかりの杉内の珍しく弱気な姿でした。でも、その根底にあるのは最後までマウンドを守り抜きたい、という投手としての思い、プライドだったのでしょう。
同学年で同じ左腕の和田毅とは共に切磋琢磨するライバル関係。互いに意識するからかあまり絡みはなく、「サウスポー論」という本で2人が共演した時は僕も「よく受けたなあ」と驚いたほどです。杉内は「渋々でしたが、僕的においしい仕事だったんで」と笑っていました。もっとも、本の中では2人とも「先輩の斉藤和巳をどう追い抜くか」と常に考えていたなど、彼らの興味深い一面を知ることもできました。
さて次回は三冠王の松中信彦の回になります。