《山内孝徳の巻》“ヒゲのエース”が直立不動の僕に語ったコントロールの極意
僕がプロ入りした1987年、南海には2人の「山内」がいました。
ひとりは速球派の山内和宏さん。そして「ヒゲのエース」こと、制球力に優れた山内孝徳さん(68)です。僕の新人時代、二軍の中百舌鳥球場のブルペンに向かうと、孝さんが投げていました。一軍選手でも、遠征で投げない先発はよく二軍で練習をしていたので、それ自体は珍しいことではありません。
僕が目を奪われたのはその精度です。スピードはそこまで感じませんでしたが、捕手のミットがほとんど動かない。狙ったところにずばずば投げ込んでいました。
そして投球を終えると、「田尻、ちょっといいか」と言う。エースに呼ばれたものだから、僕は直立不動。そんな新人に孝さんはこう切り出しました。
「球速はな、おまえの方が全然速い。でも、俺のコントロールがおまえにあるか?」
無言の僕に孝さんは続けました。
「俺はブルペンなら、捕手が構えたところに10球中9球は投げられる。外れた1球も内角ではなく、外に外れる。で、おまえは何球投げられる?」