「ヒトに問う」倉本聰著
■経済成長しか見えない日本人への警鐘
東日本大震災から2年半を過ぎた今、社会のほころびが隠せなくなった日本社会について考察したエッセー集。NPO法人富良野自然塾の機関誌「季刊・カムイミンタラ」に連載中の同名エッセーに加筆・再編集を加えてまとめたものだが、2011年の夏から13年秋まで、著者が被災地に足を運び、人々と語らいながら見えてきた文明社会の闇が赤裸々に暴かれている。
表題の「ヒト」とは、地位や身分、個人や組織の事情、貧富や思想や職業や利害関係、民族や国家などの社会の束縛を超えた、地球に生きる命としての「ヒト」を指す。
被災地を忘れて原発再稼働を唱え、目先の経済成長に目を奪われている日本人は、すでにヒトではなく自然を上から目線で支配する怪物に成り果ててしまった。さらに都市に集まった「消費民族」と、地方の「生産民族」に二分された結果、生きる上で必須の酸素・水・食料ではなく、カネと携帯を必需品と考える若者が増加したことも指摘する。
従来通りの生活維持のための資源探しに奔走する前に、大量消費・大量廃棄の輪から降り、まずヒトに回帰せよと呼びかけている。